「あ。この機種とか。どうですか、旦那!」
「なんでピンクを持ってくるんだ、お前は。」
「日吉がピンク持ってたら笑えるから。」
「…。」
08.流され流され。
「じゃあ、いっぱい候補を持ってくるからここで待ってて。」
「(つかれた…)あぁ。」
ウキウキと、何が楽しいのか分からねぇけど。
楽しそうに機種探しに出掛けた。
俺は、固いソファに座り、目を閉じて後ろの窓に寄りかかった。
あいつの相手は、いつもいつも疲れる。
が、それなら何で一緒に居るのかと聞かれると分からねぇ。
…そうだな、俺、なんで一緒に居るんだ。
別に嫌いじゃねぇから?
女女してなくて話しやすいとは最初に思った。
慣れてくると、いろいろ疲れてることもある。
異性という意識が全く無い、だから、こうも部活帰りに寄り道が出来るのか。
マネージャーの話も、こいつがやるなら良いと言ったしな。
…考えても仕方がない。
きっと、考えて解決出来るものじゃないんだ。
「日吉!これとこれがオススメだよ。」
「色がピンクじゃないだけマシだな。」
「黒と青、どっち?」
「お前は。はどっちが良いんだ。」
「私はー、このメタリックな青かな。」
「じゃあソレ。」
「良いの?わーい!すいませーん、これ下さい!」
俺の制服の裾を掴み、引っ張っていく、。
意気揚々と、は店員と話を進んでゆき。
気がつけば俺は、椅子で個人情報まで書いていた。
「受け取りに行くまでどうする?」
「適当に時間潰すしかねーだろ。」
「じゃあ、あそこの雑貨屋行きたいな。」
「…勝手にしろ。俺は「日吉もだよ。ほら、さっさと行く行く!」
「…。」
腕を引っ張られ、グイグイと、実に入りづらい雑貨屋に連れてかれる。
逃がさないようにか、腕を掴みっぱで、ストラップ売り場へと。
強引なやつだよな、本当。
「ここ、部活ストラップ売ってるんだ。シンプルで日吉も付けやすいでしょ?」
「…まぁ、多少は。」
「私もハメられたとは言えテニス部になったしさ。」
「それで、俺にコレを買えってか。」
「ううん。これは、私の日吉への携帯デビュー祝い。」
は嬉しそうに、ラケットのストラップを2個選び、
じゃあ2色わけようか、と言ってきたので、好きにしろと言ったら。
とても悪巧みしてますけど何か、って顔で笑った。
指で2個のストラップをくるくると回し、レジへと向かった。
見ると、結構混んでいて、しかもレジにいたっては並んでやがる。
俺はに、外で待ってると言って、店の外で待つことにした。
あんな女だらけで人ごみの中をよくもまぁ、ズンズンと進めるよな。
俺は、出るだけで苦労した。
ああ、そうだ。あいつ、小せぇからだ。
歩道と車道を隔てる、白いガードレールに腰をかけ。
しばらく待っていると、が店から出た。
キョロキョロしていたので(どこに目ついてんだ・・・。)
、と少し大きな声で呼ぶと、にこにこしながら小走りできた。
にこにこは絶えず、俺にストラップを一つ渡した。
ちょっと待て。なんで、俺がピンクでお前が水色なんだ。
普通、逆だろう!ピンクなら貰ってやらねーぞ!
って、おい!人の話を聞け!何、隣のマックに入ってんだよ!
* * *
「すいません、携帯を取りに来ました。あ、名前は、ぴよ「日吉です。」
「かしこまりました、日吉さまですね。」
店員の長々とした説明を右から左へ流す。
だめだ、わけわかんねぇ。
あー、まぁ。とかとかに聞けば良いか。
後は、取扱説明書とか、そんなんで、まぁ手探りで何とかなるだろう。
「それでは、これが、お客様の番号です。」
「やったね、日吉!これで日吉も携帯デビューだ!」
「あ、あと、お客様。ただいま、カップルの皆様に無料ストラップを配布しておりまして・・・。」
「「はっ?」」
「こちらが、彼女様ようのストラップとなっております。
このように、ハートの真ん中が欠けておりますね。」
それから、カップルと間違えられたことに何も否定出来ず、そのまま進んでいった。
俺は、より一回り小さいハート。・・・しかも、赤。
どうやら、の持ってるハートにはめ込む仕組みだ。
普段なら断るのだろうけど、俺が対応する間もなく、が嬉しそうに受け取っていたから。
なんだか、断る意識も失せて。俺、今日はに流されっぱなしだな・・・。
「日吉さ。その携帯の使い方、私が教えてあげるからね。」
「あぁ、そのつもりだ。」
「あ、ほんと?その携帯、私の携帯の進化系なんだー。だから、いっぱい私に聞いてね。」
と、もうすっかり暗くなった夜道を歩く。
いきなり、ポケットに入っている携帯のバイブが鳴る。
・・・少し、びびった。
すると見たこともない着信番号。
まだ誰にも教えてねぇんだぞ。誰だよ。
「はい、もしもし・・・。」
<これ、私の電話番号ね。>
・・・・最初の着信は、お前かよ!
にやにや笑うを目の前にして、
が買った水色のストラップと、勘違いで貰ったハートのストラップが俺の携帯で揺れていた。
結局、日吉はピンクから水色に変えてもらったようですよ。
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