「…少し休憩するか、。」
うーん、と頭を抱えている目の前のに言う。
こいつが俺の家で勉強をするようになって数日が経った。
始めこそは、集中力が度々切れていただったが、
やはり、偏差値の高い氷帝高等部に外部編入してきただけある。
やれば出来る、ってやつなんだろうな。
心の底から勉強は嫌いらしいが。
…それならなぜ、進学校の氷帝に来たのだろう、と考えた。
は、俺が声をかけるまで長く集中し、分からないことはすぐ聞き
それに覚えも早いので、勉強前まで出来なかった数学の方程式や公式は
もう大体基礎が出来るようになっていた。今は応用問題に挑戦中だ。
もともと暗記系は得意らしく、社会や化学、音楽は自分でできるとは言った。
あと、感覚で出来ると言った国語と英語も問題はないようだ。
今のこいつの課題は、数学の文章問題や証明問題、それと物理の式だけ。
「いや、ちょっと待って。今、この問題が気に入らなくて…。」
「どこだ?…あぁ、それか。」
教室や部室のような騒がしい雰囲気のとの時間も、嫌いではないが
こういう、静かな空間のとの時間も好きだな、ということがわかった。
38.意外と顔に出やすい
「あ、もうこんな時間。今日はいつもより遅くなっちゃったね。」
「あぁ、わりぃな。気づかなかった。」
「いいよー。私もいっぱい日吉に聞いちゃったし。」
玄関で靴をトントンしながら、が言う。
今日は両親が遅くなると聞いているから、玄関で話していても気にならない。
が、どうして両親に会わせないのと、前に聞いたことあるが
ただ見せたくないという理由じゃなくて、会わせたら勉強どころじゃなくなるからだ。
「んじゃ。また明日ねー。」
「あ、待て。…送ってく。」
「え?いいよ、冬じゃないからまだちょっと明るいし。」
「いや、俺が心配なんだよ。ほら、行くぞ。」
半ば強引に、の手を掴み、引っ張る。
いいのにー、と言いながらも、俺の隣には歩き出した。
夏は終わり、そろそろ肌寒くなってくる時期だったからかもしれないが
の手のぬくもりが、異常と言っていいほど心地よかった。
「あ、テスト終わったら、体育祭の準備だねー。」
「そうだな。部活リレーが一番めんどくせー。」
「えっ。それって私も出なきゃなのかなぁ、やだなぁ。」
「選抜リレーみてーなもんだからな、向日さんとか宍戸さんとか
あとは跡部部長とか、そこらが出るだろ。」
「そっか、日吉はテニス部の体育祭は中学で経験してるんだよね。
日吉は出ないの?足、結構早いじゃん。」
「…たぶん、俺も出るだろうな。」
そう言うと、じゃーすっごい応援してあげるよ、っては笑った。
やけに片方の腕が振られてる感があると思っていたら
どうやらが繋いでる手をぶんぶん振っているようだった。
こいつは淡々と言葉を出していくし、冗談が冗談と取れないぐらい真顔で言うが
意外と、感情が顔に出やすいことを長くつるんで知った。
…どうやら、今のはとても機嫌が良いようだ。
「体育祭の前に、赤点とらねぇように気をつけるんだな。」
「あー…がんばらなきゃなぁ。でも、ま、跡部先輩じゃないけど、私、一応外部編入だしね。
しかも、B特待だから入学金と授業料の半分免除されてるし、先生からの期待にも答えなきゃ。」
「…は?、お前、特待生だったのか?あのテスト内容で?」
「何、ちょ、すっごい失礼。ほら、勉強ってほとんど継続性からくるものじゃん?
私、入ったらそこで満足してサボっちゃったしねぇー。もともと、勉強嫌いだし。」
「それならもっと最初から真面目に模擬受ければよかったんじゃねぇーのか…。」
そしたら俺がこんなめんどくせぇこと、せずに済んだのに…
と、付けくわえ、ハァとため息をつきながら、頭を抱える。
すると、は能天気な声と表情で言った。
「日吉と二人で勉強会出来たから良いじゃん。」
そう言われちゃ、怒る気にもなれねーだろ。
計算か?天然か?
どっちにしろ、は俺と勉強できてうれしかったってことか。
…やべぇ、にやける。
思わず頬が緩みそうになったので、とは別の方向を向いて、何食わぬ顔でを見送った。
* * *
「―…はい、そこまで!」
先生の合図と同時に、クラス中から一斉に安堵の声が聞こえる。
あーっ!とか、
つーかーれーたー!とか、
ねぇー問5の答えなんだったぁ!?とか、
やばいやばい、俺終わったかもしれねぇー!とか、
私はというと、
「ふんふんふーん♪」
思っていたよりもスラスラと問題が解けたので、鼻歌をしていた。
いつもの席より遠く離れた日吉が、私を見る。
どうだった?というより、やらかしてねぇだろうなって顔。
その顔ひどくない?ちょっとは信用してよね。
そう思いながら、ばっちり、と指と表情で表す。
日吉もわかってくれたのか、ふぅ、と一息つくような顔をした。
結構前から気づいてることがあるけど、最近確信したことがある。
これは、先輩たちは分かってるみたいだけど、鳳くんは否定していた。
日吉は、意外と顔に出やすい。
まぁ確かに、日吉は誰もが認めるクールな少年だけど
きっと日吉自身が思ってるよりも、顔に出やすいと思う。
だって、ほら、
「日吉ー、たぶん点数良いと思うから、約束通りご褒美ちょうだいね。」
「何あげりゃ良いってんだ。何も欲しいもの無いって、が言ったんだろ。」
「んー、あ!駅前のクレープ屋さん一緒に行こう!」
「…仕方ねぇな、わかった。あと、そんな甘いものばかり食べてるぞ太るぞ。」
口調こそは嫌そうだけど、
ほら、日吉、なんかすっごい優しく笑ってるもん。
初めて会った時の刺されるほどの鋭い目は、どこへやら。
今の日吉は、本当に優しい笑顔をしている好青年。

要は、日吉可愛いってことです。
 |