「日吉、私に何か伝えるべきこと、あるんじゃない?」







そう言ったは、真っ直ぐ俺の目を見ていた。

あーの目を見たの、久しぶりかもしれねーとか

今度こそ、先に言葉を出すんだ。抑えろ、俺の行動力とか

そういうことを、らしくもなくグチャグチャと考えながら

を真っ直ぐ見て、あぁ、と一言。











35.未来ばかり考えて、怖くなる











まず、俺がと向き合いながらした最初のこと。

武術の大会の相手への一礼のように、否、それよりも誠意をこめて

俺は、座りながら頭を下げた。








「この前は、すまなかった。ああいうのは、了承を得てからすると

 俺自身でもわかっていたんだが、言葉より先に行動してしまった。

 今度からは、する前にきちんとに伝えてからしようと思っている。」


「いやいやいや!違うでしょ、日吉!了承とか以前の問題だよ!立ち位置だよ!

 ビックリしたーここでまさか日吉がボケるなんて思わなかったよ。」


「あぁ、そうか。そうだな、了承以前に伝えなければいけないことがある。

 、俺はお前が好きだ。…もちろん、恋愛感情として、だ。」








キッパリと言わなきゃ、男じゃねーと思いながら

言葉に出してみると案外、アレだったから、思わず最後の方は顔を背けてしまった。


なさけねーな。の顔を見れない。


どんな顔をしている?困っているのか、喜んでいるのか、驚いているのか。

今すぐにでも向き合って確認したいが、情けないことに、

この真っ赤になってる顔色を見られたくないというのと

の表情を確認することが怖いということで、背けた位置から離れられない。







「日吉、えとね。うん、照れてるの分かってるから、こっち向いて。」


「て、照れてねーよ!」


「はいはい。日吉、お願い。こっち、向いて。」







はっきりと言った、の言葉で、俺も冷静さを取り戻し(最初から冷静だけど)

の方へ向きなおした。


は、泣いてた。


表情を見た瞬間、ズキと心が痛んだ気がしたが、どーでもいい。

俺のことはどうだって良いんだ。

なんで、泣いてんだよ、。笑え、笑えよ。

俺が、そんな顔をさせてしまったのか…?







「日吉、あのね、これは日吉のせいで泣いてるわけじゃないよ。

 ち、がうんだ。えと、なんて、いうか、ね、あはは。

 私、日吉にチューされてから、考えた、よ。私は日吉が、好きなのか、な、て。

 こんなに考えるの、受験勉強以来だったんだから、ね?」


「…すまない。」


「あっ日吉が謝ることじゃない、の。ちがう、の。

 私、ね。日吉が、すっごく好きだよ、ホント。

 日吉が、居ない日なんて、嫌だ。日吉が、隣に居なきゃ、嫌だ。

 恋愛って、正直、よくわからない、の。好きだけど、でも、でもね。だけどね。

 日吉…ごめ、ん。私、怖いんだ…。恋愛関係になっても、仲良くできると、思う。

 でも、何かあって、困難があって、別れてしまったと、したら、そしたら、」








は、目をつむり涙をこぼし、自身のカーディガンの袖で目を乱暴にこすりながら

つたない言葉で、の今の気持ちを必死に、教えてくれた。


机が、今、俺とを、この机が隔てていて良かったと、思う。

もしこの机がなかったら、俺は、を抱きしめていたと思う。

しゃっくりをあげながら、必死に言葉を紡ぎだすに、

あぁ、あぁ、と頷きながら腕に力を込めて抱きしめていたと思う。


それほど、俺の目の前に居る、を、今、俺は

愛おしく感じていたんだ。








「そしたら、私の、隣から、日吉は居なくなっちゃ、うん、でしょ。

 私、これが嫌で、怖く、て。日吉の言葉に、気持ちに、答えを出せない、の。」


「それは、俺とは友達で長く、居たいという、ことか。」


「…う、ん。」








への気持ちが高まりつつある中、どん底に落とされた気持ちになった。


どうやら、今、俺はフられたらしい。

だが、のそのフる内容には納得いかないので

あがいてみようと、思う。


ガタッと椅子を引き、のもとへ足を運び、俯くの目線に腰を折った。

は、涙を目じりに溜めながら、俺を見た。


日吉…?


と、聞いたこともないような、か細い声で言われた時

やっぱり言葉より先に、俺は行動をしてしまった。


ついうっかり、と言うのはあまり使いたくないが

今のこの行動は、まさにその言葉の通り、ついうっかり

の手をギュっと握り、真っ直ぐ目を見た。








、俺はそんな理由なら足掻きざるをえない。

 困難や、これからの未来のことなんて、考えなくていい。はいつも考えすぎだ。

 俺はお前が、が、好きだ。そして、お前も俺が、日吉若が、好きだ。

 それだけで、良いんだ。シンプルに、単純に、いつものの単純頭で考えろ。

 お前は、は、俺と一緒に居たいか?俺の隣に、傍に居たいか?」







少し、強い口調になってしまった。

だけど、かっこわりーけど、そのぐらい俺は必死だったんだ。

俺の必死の言葉に、は、またか細い声で、だけどはっきりと、

目をつむりながら、涙をこぼしながら、言ったんだ。







「一緒が、良い。日吉と、一緒が良い。」







出てきた言葉が、嬉しくて。

椅子に座るの手をひっぱり、俺のもとへと引き寄せた。


あれ、こいつ、こんな小さかったっけ


とか考えながら、を、初めて抱きしめた。

は、日吉のばーか!私を捨てたら絶対許さないからねー!と

悪態をつきながら、びーびー泣いた。







、了承を得ても良いか。」


「…今は、だめ。ていうか、当分だめ。はずい。」


「わかった。今度から了承を得ないことにする。」


「え、契約違反!」


「どっちがだ!」







が落ち着いてきたところで、

電気を消し、戸締りの確認をして、部室の外へ出た。


目の前に居たのは、ニヤニヤしながら壁によりかかってる、跡部部長たちだった。


全員で、跡部部長のお迎えの長いリムジンに乗りこみ、座った瞬間から、津波が来たように

先輩たちからの質問攻めにあったのは言うまでもない。


は、別に。とくにありません、と、いつもの調子に戻っている。

俺は、質問に答える義務はありません、と言いながら、なんだかんだで気分が良かったから

先輩たちの質問に、的確に答えた。


がその度に日吉ー!こらー!と言うのが楽しかったから、というのもある。







なんだか、このまま「Fin」って出そうですが、違います。
まだまだ続く予定です。まだまだネタはあります。
くっついたからといって、終わりじゃありません。これは、長い準備体操からのスタートダッシュです。