やっちまった、どうして言葉が先に出なかったんだ。
…あいつがあんなに赤い顔をするとはな。
なんか、ケロっとして、何するのさ日吉とか言ってきそうなのに
…いやいや、さすがのでもそんな無反応なわけねーか。
満天の星空の下を、見たこともない俊足で去っていく
の背中を、俺はただ、見ているだけだった。
っていうか
「病み上がりがガチで走ってんなよ…。」
34.答えを導き出すまでがいつも複雑
からしてみれば、親友だと思っていた奴に
なんの前振りもなく、急にキスをされたんだよな。
切原ならともかく、俺からだから、相当驚いたんだろうと思う。
だけど、弁解も聞いてくれないほど走り去られると
「結構ショックでけーな、これ…。」
一人、空を見上げて、ため息。
* * *
翌日もその翌日も、風邪をみなさんにうつすわけにもいかないので
私は、学校ごと、欠席をした。
そして、今日、無事に登校することができる。
もう風邪なんてひかないと誓った。
合宿明けの登校日を休んだ時、がっくん先輩のメール内容が
日吉も欠席したんだけど、侑士や宍戸までも風邪ひいちゃってよー
準レギュや他の部員にも風邪ひいてるやつが多いらしいから
今日は風邪予防の話と、レギュラー陣でのミーティングだったぜ!
とのことだったので、びっくりしたのは言うまでもない。
「おっはようございますー。」
「おーっす!、元気になったかー。」
「がっくん先輩、メールでちょくちょく連絡してくれて
ありがとうございました。結構助かりました。」
「良いってことよー侑士も宍戸も熱はなかったから今日から出るんだぜ!」
「へぇー。がっくん先輩は風邪ひかないんですね。」
「俺と日吉は昔っから風邪ひかねーからな!」
「なるほど、バカは風邪ひかないってことですね。」
「お前、俺一応先輩なんだけど…。」
朝練、部室前。
がっくん先輩と合宿以来の対面。
あぁーなんか懐かしいていうか、がっくん先輩かわいーなー。
ガチャガチャと、ドアを開ける。
さーて、恐らく部室に居るであろう跡部先輩に挨拶しなきゃな。
「おはようございまーす。」
「うぃーっす、ていうか日吉も今日から復帰か!」
「…あ。」
「おはようございます、向日先輩。声がうるさいですよ。
よう、。お前も、もう回復したのか。」
「お、おはよ。うん、もう、だいぶ、元気、かな。」
「おはよう、みんな。あれ、二人とも復帰だね、頑張ろうね。」
「はい、滝先輩。ありがとうございます。もう、絶対風邪ひきません!」
「はは、心がけるだけでも違うと思うよ。」
ひぇー目を合わせらんないよー。
ごめん、日吉。いや、こういうのって謝ることじゃないと思うんだけど。
なんか、あの、避けたくないのに、避けちゃうんだ。
「あ、跡部先輩は?」
「跡部なら、監督のところじゃないかな?」
「ありがとうございます、ちょっと行ってきます!」
まるで部室から逃げ出すように、跡部先輩のところへ向かった。
もちろん、ちゃんと用事はあるよ。
私はどうしたいんだろう。
日吉に、どういう言葉を言いたいんだろう。
何を伝えたいんだろう。
…いや、待てよ。
むしろ、日吉が私に伝えるべきことがあるんじゃないの?
そういえば、あの時、何か言いだしそうな日吉を置いて、私走ったんだよね。
日吉は、私に何を伝えたいの。
私は、日吉にどう答えたいの。
* * *
「まぁ、私はなんとなく気づいてたけどね。」
お昼休み。私は、いつもより人気のないところでと昼ごはんを食べていた。
午前中の授業は、いつもより耳に入らなくて。
自意識過剰だけど、日吉がこっち見てる気がして。
ずっと、ずーーーっと机に伏せていた。
まぁ、これは日常みたいなものだから、先生が嘆くだけ。
そう、ただそれだけ。
「ほ、本当?。私、全然、そういうの意識したこと、なかった。」
「当事者ってのは案外鈍いもんなの。んで、第三者ってのは鋭いもんよ。」
「そっか。…ねえ。私、わかんないって言ったら怒る?」
「別に、怒らないけど。シンプルに考えなさいよ、。
いい?あんたの悩みごとには2パターンしか選択肢がないの。
好きか、嫌いか。、日吉君のこと、嫌いじゃないでしょ。」
「そりゃ、そうだけど。嫌いじゃない、よ。好きだよ。
で!でも、この好きは日吉が求めてる好きなの?」
まったく手をつけてない、お弁当に箸を置いて
私はまた考え出してしまった。
は、ストローを口にくわえたまま、んー、と唸った。
別に、恋をしたことがないわけじゃない。
中学の時だって、それなりに好きな人は居た。
告白、はしなかったけど。
その恋は、突然終わってしまったから。私の、中で。
今思うと、あれは憧れに近いものだと感じる。
「やーっぱねー。俺さーなんとなーくこうなりそうだなーってわかってたC」
「ジ、ジロー先輩!?」「芥川先輩、こんにちは!」
「ここさ、俺の昼寝スポットの一つなんだよー。
聞き耳たてるつもりじゃなかったからね、声が降ってきたから聞いてただけ。」
「ああえと、あの「言いふらさないC〜ピヨCとチュ「言葉に出さないでください!」
「うししーちゃん、結構はずかしがりーだねー。まぁ、おふざけはここらにして。
ちゃんはさ、日吉とそういう風になったことを想像してみたことある?」
いきなり草陰から現れた、ジロー先輩。こんなところで寝てるんですね…。
そして、ひそかにジロー先輩のファンでもあるは目をキラキラしてる。
ジロー先輩は、しししと笑いながら、私に質問をした。
日吉とそういう風になったことを想像してみたことあるか、の問いに
私は、ないです、とはっきり答えた。
「そしたらさ、ちょっと想像してみよっか。はい、すりーつーいち!」
スリーツーワンじゃないんですか、という突っ込みは置いておこう。
日吉の彼女になったら、ってことだよね。
日吉と付き合ったら…か、えー、どんな風になるんだろう。
案外、変わらないと思うんだけど、二人でよく買い物行くし。
ご飯も二人で食べたことあるし、電話だってメールだって、かなりしてる。
あ、映画館は行ったことないなー、日吉とかー、きっとホラー物なんだろなぁ。
日吉、怪談好きだから。私は苦手なんだけど、私が嫌だって言っても行くのかな。
…日吉は意地悪だから、行きそう。
でも、終わったあと、私の好きなところ連れてってくれると思うんだ。
私がクレープ食べたいって言ったら、仕方ないとか言いながら買ってきてくれる。
私が服を見に行きたいって言ったら、長くなるなよとか言いながら一緒に選んでくれる。
「ちゃん、今のこの表情が答えだと俺は思うけどなー。
今のちゃん、スッゲーE顔してる!」
「ほんとう、鏡があったら見せてやりたい。」
楽しいことが、わかった。彼女として、日吉の隣にいること。
だけど、その楽しい先の未来も見えた。というより、考えてしまった。
そうか、私、わかった。
私の、答え。
* * *
俺に任せて、ちゃん!
今日の部活終了後、絶対残っててね!
日誌をいつもより真面目に書き、的確に項目を埋めていく。
(いつもこのぐらい書けば早く帰れんのによと跡部先輩に言われた)
跡部先輩と監督とのミーティングも終わって
跡部先輩と部室に戻ってきた。
部室は、もちろん誰も居なかった。
そして、用事があるのでと跡部先輩に言うと
あぁ。一つ言っておくが、部室内には監視カメラがあるからな。
悪さすんじゃねーぞ。あと、激しい運動とか止めてくれよ。
と言ってきたので、
いや、悪さしませんよ!ていうか、ちょっと考え事するだけです。
と返したら、単細胞で単純なだから悩んでることも至極簡単なことだろうな、と
ニヤリと笑いながら樺地くんと出て行った。
「一人きりの部室って、なんだか、あれだな。いや、怖いってわけじゃないけど。」
ガチャ
「あ、ジロー先輩?良かったぁー…って、日吉!?」
「か。…あーなるほどな、芥川さんが俺に忘れ物取ってきてってしつこく言ったのは
こういうことだったのかよ…。フン、余計なことを。」
「あはは、余計なことって、相変わらずジロー先輩には酷いなー。」
なるほどね、ジロー先輩。
ちゃんと二人で話しなさいってことね。
そうだよね、うん。日吉と絡まない一日なんて、今日だけで十分。
日吉は、私の前の席に座り、机に肘をつきながらジロー先輩のことを言った。
私は相変わらずの日吉に、思わず笑う。
「日吉、私に何か伝えるべきこと、あるんじゃない?」
日吉から逃げない、避けない、目をそらさない。
ちゃんと向き合うんだ、自分にも、日吉にも。
ごめんね、日吉。

総話数を出すために合宿編の数字も足してみたんですが
気づけば30話を超えていました。皆様のおかげです、ありがとうございます。
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