当たって欲しくはないが、俺の勘は当たっていた。







「なぁなぁ、はテニスしねーの?」


「私、マネージャーだから。それに運動は好きじゃないし。」


「なんじゃ、はインドア派かい。都会モンじゃなー。」


「いえ、キャンプとかは好きですよ?運動会とか。だけど、マラソンは嫌いです。」

 ところで、このソース美味しいですね。」


「お前さんはポンポンと話が飛ぶのう。」









切原と仁王さんの間に挟まれながら、談笑する


大体、の隣には俺が居たから、が嫌そうな顔をしたら

俺が居ないの隣なんて、予想がついていたんだ。

…正直、談笑は予想していなかったが。


きっとまた嫌そうな顔をしているんだろう、とか

アイツ、からかわれるの嫌いだしな、とか。そう考えて、早くの隣に行かなくてはと、考える。


…何、王子気取ってんだ、俺は。自分で、自分にため息がでる。


だけど、それでも、やっぱり

視線は、俺の足は、のところへと

向かうんだ。















21














「日吉!」






の明るい声とともに、その場の視線が俺に突き刺さる。

マスクを少し、はずして


ご迷惑をおかけしてすいませんでした。


と一礼を、した。







「もう大丈夫なの?ていうかマスクじゃん!寝てたほうが良いんじゃないの?」

 気持ち悪くない?ちゃんと歩けるの?ていうか熱は?」


「全部一気に言うな。北条先生から即効性の薬を頂いたから、今はダル気はない。」


「まじかー良かったぁ。ねぇねぇ、何飲みたい?私、持ってくるよ。」


「…温かい緑茶。」


「わかった、日吉はそこで座っててね。」







一礼をしたあと、すぐ目の前に駆け寄ってきたが居た。


談笑していた時より、楽しそうというより嬉しそうな笑顔をして

飲み物のテーブルに、足早に向かっていった。


…取り返した気分と勝ち誇った気持ちを混ぜて、切原に向けて笑みを浮かべてやった。







「日吉、熱出したん初めてやったんな?きっついやろー、あれ。」


「侑士、熱によっえーもんなぁ!」







マスクを戻して、椅子に座ると先輩たちが目の前に居た。

跡部部長を目の前に居ることを確認すると、俺は、立ち上がり

熱を出したこと、氷帝の名にそぐわぬ失態になってしまったことを一礼した。


そんな俺に、跡部部長は、さっさと治せの一言だった。

この人は本当に、偉大な人だと思う。


下剋上がいがある、と思おう。







「良かった、元気そうだね。ふふっ、薬のおかげ、だけかな?」


「…即効性の薬をいただいたので、だいぶ楽になりました。」


「大丈夫、青年よ、よく悩めって言うじゃない?」


「……そうですね。」







この立海大付属の部長とも、相当長く付き合っているほうだと思うが

やっぱりこの人は何考えているのか、さっぱりわからない。

年上の方をこういう風に言うのは、義に欠けてるかもしれないがな。







* * *






つかれたなぁ。

合宿って、こんなに疲れるものなんだなぁ。


ただいま、長い長い合宿を終え、バスに揺られております。

席が気になるところだったのですが、

えぇ、そうですね、やはりそうですよねぇ。






「行きと変わらず、私は跡部先輩の横顔を見るはめになるんですねぇ。」


「俺様の顔を拝められることを、自慢に思えよ。」


「跡部先輩、顔のつくりは良いですからねぇ。たっぷり自慢しますよ、祖母に。」


「てめっなんで同級生とかそういう学園内の奴に自慢しねーんだよ。」


「跡部先輩の隣に座ったってだけで、みんなから写メは!?とか大騒ぎですよ。やだやだ。」


「そう言いながらこっちに携帯向けてんじゃねーよ、寝てろ、病人が!」







考えてみれば、跡部先輩の隣なんて、結構損得激しい場所なんだから

出来る限りの得を獲得しよう。そうだ、写メ撮ろう。と思い、携帯を先輩に向ける。


先輩は、口ではギャースギャース言いながらも、

ちゃっかりカメラ目線してるもんだから、憎めない。






「あ!俺にもそのポッキーちょうだいっす!」


「ふっざけんな、赤也!これは俺がもらったの!」


「うるさいですよ、切原君。日吉くんが寝ているのですから、静かに。

 丸井君も、ポッキーぐらいあげてください。食い意地はってては増える一方ですよ。」


「増えてねーよ!っちぇー、しかたねーな。

 ほらよって俺のポッキーの袋ごと奪ってやがる!」



「侑士ー!俺さ、俺さ、連休明けに補習するかもしれねぇ、

 どうしよう、因数分解が…ぎゃー!」


「岳人はほんま、数学嫌いやね…。仕方ないわ、教えたる。」


「あーそっかー。もうすぐ、テストですねぇ、宍戸さん。

 宍戸さんは、どうですか?順調ですか?」


「順調…と言いてぇけどな、けどな…英語が呪文に聞こえるんだ、俺…。」


「それは、順調というより、重傷だよ、宍戸。」








後部座席のほうで、会話が一気に流れていく。

みんな…元気、だなぁ。あ、真田さんが怒鳴った。

…うん、そうだね、幸村さん。真田さんが一番うるさかった。


そうかぁ、テストかぁ。







「テストかー…。だいたい、学力で人間の価値を測ろうってのが間違いです。

 人間、学力だけじゃ上にのぼっていけないんですよ、なのに、測るという行為!

 人の未来を学力で!数値で測ろうというのか!誰かが誰かを審査する、あな恐ろしや!」


「…、お前、苦手なんだな。勉強。」


「お前さん、氷帝学園高等部には外部編入じゃろ?」


「そうですけど、もともと頭の出来は良くないんです。寝ちゃうっていうか…

 ていうか、なんで仁王さん、私の後ろの席に居るんですか。日吉が居るはずなのに!」


「寝とるよ?日吉。ところで、俺は数学が得意なんじゃが「結構です。」








* * *








バスを降りて、もう真っ暗になっている、外で、みなさんとお別れした。

立海の人たちは、とても濃いキャラの人たちばかりで、

すっごい良い人もいるのだけど、人としてどうかと思う人もいた。


…仁王さんや赤也以外は良い人たちばかりなんだけどね。

からかわれる、っていうのが苦手な私には二人は強敵すぎる…。


一つ、決意をした。

中途半端なマネージャーにはならない、なるのは完ぺきなマネージャーだ。



日吉と私と滝先輩は同じ方向の帰り道で、途中まで一緒にお話しした。


テニスのルールっていうのも、ちょっと教えてもらった。

滝先輩が、簡単なルールブックあるからあげるよということだったので

その約束をして、滝先輩とも別れた。


日吉と私、病人同士、二人で道を歩く。







「でね、跡部先輩が勉強教えてくれるらしいんだけど

 ほんっと、あの人なんでもできるんだねぇ。どの教科でも見てやるってさ。」


が寝てばっかいるから、そんなことになるんだろ。」


「だって、退屈なんだもん。ノートはとってるよ?…途中まで。」






他愛もない話をするのが、なんだか懐かしい。






「ふふふっ。」


「なんだよ、気持ちわりーな。」


「私、日吉が倒れたとき超焦ったんだよー。熱中症かな、とか。

 ごめんね、私の看病してたからだね、結構…申し訳ない。」


「…のせいではない。確かに、うつったのかもしれないが、

 あの時、倒れたのは、俺が…考えすぎてしまっただけだ。一つのことに。」








私には、真面目な話をするとき、一つのことしか進行できないという癖がある。

たとえば、今。私は、日吉への謝罪をする話をするために、歩くべき足を止めてしまっている。


だけど、そのおかげで真正面に立っている日吉の顔を見ることができた。

…なんだか、うん、悔しそうな顔してた。

日吉のことだから、こんなんじゃ下剋上できないとか思ってるのかな。








「私ね!日吉が居なくて、寂しかったよ。たった半日だけ、居なかっただけなのに、

 すっごい心配したし、すっごい退屈した。やっぱ、私、日吉と居るのが楽しいやー。

 無愛想で、不器用で、冷静に周りを見渡しての判断ができて。

 言葉足らずだけど、本当は優しいところとか、結構好きですよ?日吉くん。」


「…ふーん。」


「あれ、照れた?ねぇ、照れた?」


「うっせ。」


「うけるー、日吉が照れたー。」


「…。」







私は、褒めて伸ばすタイプなのよ、日吉?

と、心の中で言いながら、日吉がまたあの生意気そうな顔に戻るように。

大丈夫だよ、日吉。でも、言った後は恥ずかしかったから、ちょっと茶化してみた。


日吉が、マスクを外して真剣な顔をして、私を呼んだから、どうしたのかと思ったら

日吉の顔が、近いって言葉じゃ表せないくらい、近くなって

やわらかい感触がして、顔が全身の血が集まったほど熱くなって



思考、停止。


空気が、時間が、止まったんじゃないの…これ?っていうくらい、静かで。



気づいたら、たぶん、私より真っ赤な顔をしている日吉が居た。







「…。伝えたいことが」







何があったのか、状況が理解できなくて。

とりあえず、早く行動したのは、私の足だった。

やばい。日吉の話を聞く前に逃げてしまった。

こういうのって逃げたほうが傷つくらしいけど、

ごめん、日吉。ちょっと、今…恥ずかしくて、死にそう。


あの、寝込んでるときに見た、

日吉にチューされる夢は予知夢だったのか…。












日吉は、結果がわかるとすぐ実行するタイプだと思って。
で、何を言っていいのか、言葉につまったときは、結構本能に忠実なタイプ。
…だったら良い。さて、マネジ本格化合宿もとい日吉くんの成長合宿、ついに終了しました。
長かったなー。