ーっ!今日の夕食、5時からだぜ!しかもバーベキューだぜー!」


「ちょ、ノックしてから入ってきてくださいよ!」








そう言ったら、がっくん先輩が悪いと言って、またドアを閉めた。








コンコン







ーっ!今日の夕食、5時からだぜ!しかもバーベキューだぜー!」


「2回同じことしなくたって良いですよ…。」


「はぁ?もうお前、わがままな奴だなー!

 まぁ良いや!さっさと準備しろよ!もう食堂行くぜ!」








手を強く引っ張られ、

はいはい、今行きますよーと引っ張られるがままに部屋を出る。


外の大きな広場へ向かうと仁王さんが見えてしまい、思わず…ゲッと言ってしまった。

相当嫌そうな顔をしていたのか、仁王さんの隣に居た幸村さんが笑っていた。

すぐ顔に出てしまう、この単純なところ…早く直したいものですね。












20













「傷ついた。」


「すいません。つい、顔に出てしまって。」


「余計傷つくじゃろ。謝る気はあるんか?」


「正直に言うと、誠意はありません。」


「良い性格してるね、ちゃん。」


「いえいえ!特定の人たちだけです!ねっ、がっくん先輩!」


「いや、特定だけじゃねーと思うぜ、俺。」








特定ですよ!例えばセクハラしてくる他校の先輩とか、

危険な香りがする他校の同学年です!


と、仁王さんを指さして幸村さんに言うと、

仁王さんは…あー耳がいたいと言って目を摘むって耳をふさいだ。

そして私たちは一緒に外の広場へ進んだ。


外の広場に着くと、居るはずの日吉の姿がない。

まさか…まだ具合悪いのかな。

昨日様子を見に行ったとき、確かにあまり喋らなかったしなぁ。

気になって仕方ないので、跡部先輩の隣に立った。








「あの、日吉、夕食も食べれない状態なんでしょうか…?」


「今、北条に診てもらっている。鳳と樺地に夕食に連れていくように頼んだら、

 日吉が吐いている最中だったらしい。」


「え、それ…病状悪化ってやつですか?」


「そういうことになる。」








北条、というのは跡部先輩の専属の医者であり、

合宿についてきてもらっている人だ。

それにしても、吐くほど悪化しているなんて…大丈夫なんだろうか。








「暗い顔してるC!なんかあった?」


「バーカ。こういう時は何もかも分かってるかのようにな、こう言うんだ。」








丸井さんは優しく私の肩に手を乗せ、

目線を合わせながら、まるで労るように言った。








「二日目って…つらいよな…。」


「………は?」


「何も言うな、マネージャー!二日目なんだろぃ?

 つらいよな、しかし我慢するんだ!それは女の子特有の痛みゲフンッ


「わりーな、マネージャー。

 こいつは責任持って立海のほうに持ってくからよ。」


「あ、ありがとうございます…ジャッカルさん。」


「ったく…ちょーっとした冗談だってぇのによー。」


「丸井くん丸井くん!あっちでスゲーでけー肉焼いてるー!」


「おっ!マジだ!おーし行くぞ芥川ー!」


「いえーっ!」








焼き肉の場は、合宿所のすぐ隣の大きな広場だった。

みんなで焼き肉というシチュエーションで必ず起きる、

わー焼きすぎちゃった!などの可愛いハプニングが起こるはずはない。


なぜなら、でっかーい鉄板が何個もあって、それぞれに焼き専用のシェフが居るからだ。

飲み物場には、メイドさんが居て、何十種類もあるであろう飲み物を笑顔で渡してくれる。








「ほんっとう、跡部先輩が行う催しものは学生離れしていますよね。」


「アーン?何言ってんだ、。焼き肉ってのはこういうもんだろうが。」








ふん、ばかか、こいつ、とふんぞり返ってる跡部先輩に庶民の焼き肉を教えてやりたい。

そして、真っ黒コゲの肉を食べてしまえばいいのに!

あ、でも、跡部先輩、お腹弱そうだから辞めたほうがいいかも。








「日吉、大丈夫かなぁ…。」


「なんや、そないに日吉が心配なんか?」


「あ、忍足先輩。うーん、なんていうか、日吉って熱に弱そうです。

 熱の経験がなさ過ぎて、うなされそうで。」


「まぁ、記憶にあるかぎりでは、日吉のやつ、これが初めての熱だろうからな。」


「良い経験になったんちゃう?あ、せや。あとで体に優しそうなモン、持って行ったろか。」








にこ、と、忍足先輩が珍しく、優しそうに笑った。

私の頭を、お父さんのように撫でながら。








「風邪には玉子酒だと思うんですが、どうでしょう。」


「いや、酒はあかんやろ…。」


「まず、酒に玉子というのは美味しいのか。見当もつかねーな。」


「庶民が考え出すものは大体、美味しいです。これだから跡部先輩は。」







日吉の容体が落ち着いたら、あとで忍足先輩と跡部先輩と食べ物持っていこう。

それでもって、もし、日吉に悩みがあったら、話してくれそうだったら

いつもどおりの私で聞いてあげよう。いちいち、茶々いれないように気をつけなきゃ。



早く、回復してね、日吉。

ちょっと、ちょっとだけだけど。


私は、寂しいです。日吉が居ない、左隣が。








* * *








「…さて、どうですか、日吉くん。

 先ほどの薬は即効性だから、そろそろ効いてると思うのですが。」


「ありがとうございます、北条先生。
 
 おかげさまで、ほとんどダルさもなくなりました。」








外でわいわいしている、先輩たちの声や、の声を気にしつつ

目の前に居る北条先生にお礼を述べた。


熱はまだあるようだが、さっきよりも体が数倍軽い。

が部屋に居たときは、意識も朦朧としていたが、

今は、驚くほど頭がスッキリしている。








「それは良かった。もう少ししたら、もう外へ出ていいからね。

 あぁ、もちろんマスクはしますよ?あと、手の除菌も欠かさずにね。

 せっかくの合同合宿の最終日です。焼き肉はツライだろうけど、楽しんできなさい。」


「はい、ありがとうございました。」


「いえいえ。それじゃぁ、わたしはこれで。」








ガチャ、ンと。

静かにドアが閉められる。


響くのは、外の喧騒と、俺の、吐息。








「……。」






そして、今一番に顔が見たいやつの名前。






* * *






「いや、あの、私、そんな大きい肉とか食べれないから…。」


「えー。何言ってるんスかー。食わなきゃ育たねーぞ?」


「いや、さほど気にしないから…。だから、あの、いい加減離れよう?ね?」


「なんだよ、?俺が焼いた肉、食えないってわけ?」


「焼いたの、赤也じゃないじゃん…。跡部先輩のシェフじゃん…。」


「細けぇこと気にするな!ここまで来たらぜってぇ食わす!」


「えぇ、めんどいなぁ。いいよ、食べるよ。だから、私のお皿に置いて。離れて。」


「やだね!あーんてしようぜ、ちゃん?」


「ちゃん付けするなら食べな「あーん!」


「きいちゃいねー…。」








あーんとか、恥ずかしいことなんでしなきゃいけないの、ばかなの、死ぬの?

頼みの綱の日吉は居ないし、跡部先輩は立海の3年生と何やら真剣トークしてるし

忍足先輩は、がっくん先輩のお世話に忙しいし…

そうだ、宍戸先輩は…っと、だめだあの人、肉しか見てない。


あ!鳳くんは!?ジャッカルさんは!?柳生さんは!?


わぁ、樺地くんと談笑してるー。ははは、どうしよう、助け舟が居ない。

あれ、危険2の仁王さんが見当たらないんだけど…嫌な予感しかしない…。








「はいはいはい。わかったよ、あー「次、俺じゃよ、赤也。」







ほらね、私ってばやっぱりついてない!














さてさて。長かった合宿編(思春期日吉の成長記録)も次で終わりですよ。
日吉は、気づいたは気づいたで、どう現状が変わるのでしょうかね。
友人は、明らかに甘くなるなら萌えると言っていましたが
私は、逆にどうしたら良いのかわからなくて意識しすぎて冷たくしちゃう日吉だと萌えます。
どうなるかなぁ。