「あれ、日吉と赤也が何で戦ってるんですか。

 まだ、試合、始まってないですよね。」


「そうなんじゃ。赤也のあの目・・・。なんか知らんが興奮しとるし。」


「目?そういやぁ、充血してますね。睡眠不足ですか。」


「赤也はの、赤目になると、人格が変わるんじゃ。」


「へー。睡眠不足で充血してたら、そりゃ、イライラもしますよね。」


「そーじゃなくてな。」










18











「どーするよ。勝手に、おっぱじめやがったぜい。」


「活気があって良いじゃないか。俺達も、しばらく見守ろうか。」


「活気があるっていう問題じゃないでしょう、幸村くん。」


「赤也が勝負をふっかけたのだろう。日吉も、血の気が多い性格だ。

 おそらく、赤也の挑発にまんまと乗ったのだろう。」








隣で、柳さんが言った。

柳さんの言うとおりだと思う。


日吉も意外と血の気の多い性格だし、赤也がなんらかの挑発をかけた。

そして、その挑発に日吉がのった。

それで、今、ちょっと早い試合が始まってるのだと思う。

日吉の顔が、いやに険悪なのも、そのせいだろう。








「跡部先輩、どうしますか。結構、ラリー続いてるので、長引きそうですよ。」


「ほうっておけ。それに、互いのエースの試合ってのも俺自身気になる。

 切原を止めないということは、おおかた、幸村もそうなんだろう。」








跡部先輩の言葉を聞いたあと、幸村さんを見ると、

両手を体の前に組み、ひざの上に乗せて、何かを考えるように見ていた。



宍戸さんと、戦闘態勢宣言していたときは、まだ試合していなかったはず。

私がドリンクやタオルやらの準備を終えて、コートに入ってきたときには始まっていた。

どうしたというの、日吉と赤也は。


どうして、日吉があんなに怖い顔しているの。








* * *








完全に目が赤くなり、切原は言う。

不適に口を歪ませながら。








  アンタさ、を好きじゃないって言ってるけどさ。
 
  本当は、自分自身、気づいてるんだろ?


  目が愛しい、愛しいって言ってるぜ?


  本当は、そういう対象として見てるのに

  なんか、俺、すげームカつくんだよねぇ



  言っとくけど、俺は、本気でにハマったから。


  さぁ 日吉も こんな風に言ってみせろよ

 

  自分にウソつくようなやつ、俺は一番嫌いだね

  俺はいつだって自分の気持ちに素直に生きてきた


  気に入らないやつは、潰してきた

  気に入ったやつは、手に入れてきた


  だから、俺は、アンタみてーなやつには、テニスでも負ける気がしねぇ

  なんなら、少し早いけど俺とシングルで勝負する?


  俺は、アンタを潰すよ


  アンタを潰して、を手に入れる

  アンタが潰れて、泣き喚くを手に入れる









無性にカッとなった。

負ける気がしねーだと?俺を潰すだと?

泣き喚くを手に入れるだと?


ふざけるんじゃねぇ。


俺は、切原の勝負をうけた。





それで、今、この状況だ。

跡部部長たちが見ているなか、俺は切原と対戦している。


ラリーは続いた。

だが、切原の手で踊らされているようなものだった。

あちらこちらとボールを散らす切原の球を、

俺が負けまいと必死に返しているだけだ。


というか、俺、どうしてこんなにムキになっているんだ。

好きじゃねぇ、と言えば、この少し早い試合は無かったはずだ。


どうして、俺は、否定をしなかったんだ。


以前は、していたのに、どうして今、否定しなかったんだ。




あんなマイペースなやつ。あんな強引なやつ。
 
人を振り回し、楽しんでるようなやつ。

あんなつかみ所の無いようなやつ。

変なところで負けず嫌いで。

変なところでしぶとかったり、諦めが早かったり。

弱さを見せないように自分が倒れるまで働くような、バカな、やつ。

つーか、なんで自分が倒れるまで追い込むんだよ。

まぁ、バカだから気づかなかったんだろうけどな、自分の限界に。

バカは風邪をひかないっていうのは、風邪をひいても気づかないというから。

今回のぶったおれだって、同じだろう。



しかし、俺はどうして、こんなにバカだバカだと言っている、を、昨日―・・・

ああぁぁぁぁぁあ!!!!!

何を思い出してやがる!あれは、衝動だ!衝動!

・・・待てよ?衝動って、駄目だろ、オイ。

そしたら、俺、本能・・・っていうか性欲と征服の塊の黒モジャと同じじゃねーか。


あー くそ。


考えすぎて、頭がいてぇ。

感情的になってるせいか?

異様に、体が熱い。








* * *








「なんか、日吉、考え事してませんかね。」


「考え事ー?まぁ、あいつ、結構頭脳プレーもするからな。」


「いえ、そうじゃなくて。なんか、うじうじ考えてるというか。

 うーん、うまく言い表せれないんですけど。」



「良いトコつくの、。」



「え、あたりですか。って、仁王さん、なんか事情知ってるんですか?」


「あくまで考察じゃ。チューしてくれたら「お断りします。」


「・・・冷たいのう。ま、その気の強さに免じて教えてやるぜよ。

 あれじゃよ、あれ。エサの取り合いじゃ。」








仁王さんは、人差し指をクルクルと遊ばせ、目を細め、笑った。








「どういう意味か、分かりましたか。がっくん先輩。」


「・・・今日の晩飯でも賭けてんじゃねーの?」


「日吉がそんなにがっつくような奴だと思いますー?」


「思わねーなぁ。」


「どっちにしろ、さっさと勝負つけないと、日吉、ヘバっちゃいますよ。」


「お前、日吉が負けると思ってんの?」


「今の状況からだと、負けそうです。日吉は、感情だけで動いてるから。」


「ま、な。踊らされてるというか、なんつーか、やべーな。」








出来れば、私は、親友が負けるところは見たくない。

苦しそうな親友も見たくない。




ウィーンウィーンと頭をうならせ、どうしたものか、と考えていると、

がっくん先輩の声で、現実世界に引き戻った。








「あ、ぶっ倒れた。」








えぇぇぇええ!?








* * *








「かんっぺきに、の熱がうつったな。」








試合を見ながら、腕組をしているがっくん先輩が言った。

大げさに、首を縦に振りながら。








「まぁーこいつ、つきっきりで、の看病してたからな。」








宍戸先輩も、ドリンクを飲み終えたあと、がっくん先輩と同じことを言った。

やっぱり私のせいなのかなぁ?

日吉、つきっきりで看病してくれてたって聞いたけど、そのせいでうつったのかな?

・・・でも、実はちょっと嬉しい。

あのまま赤也と試合をしていたら、冷静さが欠けていた日吉は間違いなく負けていただろう。

日吉の負けてるところは見たくないから、これでよかったと思う。








「それぐらいで、熱がうつるんスかぁー?まさか、寝ているにチューしたんじゃ・・・!」


「ないない。赤也じゃないんだから。日吉だよ?ないない。」


「身体と身体を密着させることによって、感染確率は高くなるがな。」


「柳さん、身体と身体を密着とか、ちょ・・・きもちわるいです。」


「っつーかさ、珍しいよな、日吉が熱出すの。俺、初めて見たぜ。」


「そういえば、幼等部から病気はしたことありませんね。

 日吉、体調管理にはいつも気をつかってましたから。」


「ちゅーか・・・自分ら、試合、見ぃへんの?」








頬杖をつきながら、やる気なさそうに見てる忍足の言葉に対して

私が言った言葉はみんな同じだったと思う。







「跡部先輩のパフォーマンス、どーでもいいです。」






ただいまテニスコートでは、跡部先輩のパフォーマンスが繰り広げられていますからね。