「日吉!どうしよう!HR終わって、鳳くんのところ行ったら、もう居なかった・・・。」


「へぇ。」


「うわ、みたいな反応!だからさ、日吉から「断る。」


「ちょっとは悩んでくれないの・・・。」










03.彼女じゃ ありません。










「おい、日吉。お前、面白い彼女持ってるな。」


「・・・はい?」


「今日、職員室でな。お前を楽しそうに熱弁してるヤツにあった。」


「(だ・・・。)」


「監督の授業の時は、ちゃんと歌ってるそうじゃねーか。」


「だったら悪いですか、跡部部長。」








冗談じゃない。

この人にからかれるなんて、まっぴらゴメンだ。


その思いを込め、睨むと、部長は楽しそうに笑った。








「あいにく、あいつは彼女じゃありません。

 偶然クラスが同じで、偶然席が隣なだけです。」


「へぇ。まあ、安心したぜ?お前も、ちゃんと学生やってるんだな。」






一番現実離れしてる学生生活を送ってる、あんたに言われたくない。






「なんや、恋バナ?」


「ばーか、ちげーよ。」


「せやな、跡部と日吉が恋バナなんて想像出来へんもん。」


「部長、俺、早くストレッチしたいんですけど。」


「ああ。・・・そうだ、日吉。久しぶりに相手してやろうか。」








ニヤと、この人が笑って。肩にかけているだけの、ジャージが揺れる。

この人は、ほんとうに気まぐれだ。

気まぐれに、いきなり、俺の相手をしてくれる。

・・・それなのに勝てないことが悔しい。


ふん、下克上等だ。








「そうやって、人をなめてると、足元すくわれますよ。」


「ほう、すくうような奴が居るのか?あーん?」


「えぇ、目の前に。」








絶対に、負けねぇ。








* * *








右を見れば、女の子!

左を見れば、女の子!


そうか。ここは、女の子たちの巣窟か。

みんな、腹の底から声を張り上げてるね。








「うわー。もう、いやだなぁ。あの女の子たちの量。返しに行きたくないな。」


「さっさと返さないからでしょ。バカじゃん。」


ー。待ってー!私たちを置いてかないで!」


「知らないよ。たち、って誰だよ。しか居ないでしょうが。」


「この、鳳くんの教科書は私の仲間です。戦線をくぐりぬけた戦友です。」


「じゃあ、私、帰るから。」


ー!!!」








私を置いていく、友人。


そして、私は、鳳くんの教科書を持って・・・。








「私も一緒に帰る!」


「帰るんかい!」








* * *








「ひーよーしっ。もう帰るの?」


「・・・。・・・ああ、鳳か。」


「え、今、なんでそんな嫌そうな顔したんだよ!」


「一瞬、かと思った・・・。呼び方とか。」


って、今日、俺が教科書貸した子?」


「あぁ。」


「日吉に、あんなにタックルする人居たんだね。しかも女の子!」


「ただの馴れ合いだろ。あと、あいつは高校からの入学だからな。」


「馴れ合いでもビックリしたよ〜。」



「なんなん?今日、日吉、やたら女の子の話しとるんね。」


「えっ、まじかよ侑士!」


「あぁ、そういえば。日吉、お前の彼女、名前なんつーんだ?」


「彼女じゃないって言ってるでしょう!です、です!」


「あーあー。跡部がぴよCをからかうから、ぴよC怒っちゃったC!」


「日吉です。ぴよCじゃありません。」


「あ、良いね。ぴよ。うん、私も明日からそう呼ぼうかな。」




「「「「 !! 」」」」




「はぁ!?なんで、居るんだよ!」


「鳳くんに教科書返しに家から戻ってきたんだよ。

 はい、ありがとうございましたーっ。」


「えぇ!そんな、頭を深々と下げないでください!」








頭を深々と、もう、デコと足がくっつくんじゃないかってぐらい、頭を下げる。

そんなに、手を振って焦る、鳳。

そして、突然現れたコイツにいまいち状況が掴めない、俺。と、先輩方。

なんで、なんで居るんだ・・・。教科書なんて、明日の朝返せば良いだろう。

家から戻ってきたと言ったって、暗いだろ、夜だぜ。

お前、ほんとう・・・。








「何やってんだ!」


「うわっ、超びっくりした。いきなり怒らないでよ、もう。牛乳飲む?」


「帰るぞ!ほらっさっさと歩け!このバカ!」


「えーーーー!なんでよー。もう少し鳳君にお礼言わせてよー。ちょ、ぴよ!」


「日吉だ!何、ちゃっかり呼んでやがる!お前、自転車か、歩きか、どっちだ!」


「あ、チャリです!」


「じゃあ、俺の荷物持て。良いか?送ってやるから、この貸しは明日返せ。

 ・・・先輩方、さようなら。先に失礼します。」


「鳳くん、さような「行くぞ。」








いくら、俺が鳳に渡してやらなかったからって、何、渡しに戻ってきてんだよ。

バカじゃないのか。夜だぜ、俺らテニス部が終わる時間帯は。

なんで、こんな手が冷たいんだ。

バカじゃないのか。








「な、あれ、誰だ、長太郎。」


「日吉のクラスのさんという女性です。」


「あれが、日吉の彼女なんやな。」








後ろから、聞こえてきた忍足先輩の声。

ふざけるな。

こんなやつ、








「彼女じゃありません!」






>>2014.10.01加筆修正