「・・・・なんで、プリン・・・?」








ふと、目覚めた。



でも、まだ体を持ち上げるには、少し億劫な気分で。

目だけ動かし、あたりを見渡した。


どこか違和感感じると思っていた首元に、プリンがあった。

しかも、特大。


なぜに。








「あ、起きたんだね。おはよう。」


「・・・え、あれ、滝・・・先輩?」


「体はどう?まだ、気だるいなら寝ていてね。頭は痛い?」


「・・・だるさは残りますが、頭痛は平気なようです。」


「そっか。じゃあ、まだ体を起こさなくて良いよ。」








優しい滝先輩の声に、少しまた安心感が出て。


まるで、お母さんが一緒に居るような。


そんな、小さい子供みたいな安心感、嫌だけど。

滝先輩の空気は、この体調の悪さにとても心地よい。


あー・・・。また、寝てしまいそう。



・・・って








「そうだ!部活・・・!仕事しなきゃ!!」








何、和んでるんだ、私は!

何、寝ようとしてるんだよ、私は!










15










「ストーップ。はい、そこで待ってて。」


「え、でも、滝先輩!私、もう平気です!仕事しなきゃ!洗濯しなきゃ!」


「駄目。絶対に、駄目。跡部呼んでくるから、ここで待ってるんだよ。」


「でも「待ってるんだよ。」・・・はい。」








有無を言わさない、滝先輩の声。

仕事しなきゃ。洗濯しなきゃ。迷惑なんてかけちゃいけないのに。


なんで、私、ぶっ倒れてるんだろう。


あーぁ。情けない・・・。跡部先輩も、幸村さんも、きっと、みんな、怒ってる。


と、思っていると、滝先輩が頭を撫でた。

目だけ動かし、滝先輩を見ると、


誰も怒ってないから、安心して待ってるんだよ。


と、笑った。

私の考えてることなんて、お見通しですか。








「はい・・・。・・・あ、滝先輩!」


「なに?」


「看病してくださって、ありがとうございました。あと、プリンも。」


「アハハ。看病したのは、俺じゃないよ。ここに運んだのも、看病していたのも、日吉。

 まぁ、その特大プリンは、日吉じゃないんだろうけど。」








日吉が、私を?

ここまで運んで、看病してくれていたの?

・・・そっか、じゃあ日吉にお礼を言わなくちゃ。


そういえば、首元が心地よかったのは、プリンだって分かったけど。

頬も心地よかったのは、なんでなんだろう。

濡れている感覚はないし、あの、ひんやりとした心地よい感覚はなんだったんだろう。


・・・そういえば、誰かにチューされたような、夢も見た気がする。


―もう、休め。―


そう、誰かに言われた気がした。うーん。夢だろうけど。

薄れる感覚の中、見えたのは、見覚えのある髪色で、見覚えのある顔。

あの、顔は・・・日吉?



って、まっさかー。

どんな夢見ちゃってるんだい、私は!

まさか日吉とチューする夢を見るなんて、日吉に言ったら、友情崩れそうだね。

いやぁ笑えるなぁ。アッハッハッハ。





コンコン








?俺だ。入るぞ。」








ガチャ









「よう、調子はどうだ。」


「跡部先輩!大丈夫です。えーと、すいませんでした。迷惑かけてしまい。」


「ああ、気にするな。しょうがねぇことだ。」


「寝汗もかいているようなので、着替えたら、また、復帰します。」


「アーン?何、言ってやがる。病人にやらせるかよ。」


「大丈夫です。寝たら治りました。だから、お願いします。

 洗濯だけでも、やらせてください。ドリンクだって、分量間違えずに作れますから。」


「洗濯は、使用人にやらせた。ドリンクは、料理人に作らせた。」


「・・・そう、ですか。」


「言っておくが、怒ってねぇからな。使い物にならねぇとも思ってもいねぇ。」


「・・・はい。」


「幸村も真田も言っていたが、洗濯やドリンクやら、マネジ業をしているお前は至極楽しそうだったと。

 マネジってのは、嫌々やるもんじゃねぇからな。楽しそうってだけで、選手側にもやる気がでる。」


「そりゃ、楽しいですよ。だって、みなさんが、頑張ったね、って言ってくださるから。」


「頑張ったね、とか、お疲れ様とか。そういう事を言われる時点で、お前は認められてるんだよ。

 だから、熱出してぶっ倒れたぐれーで、を怒るつもりはねぇ。

 そんぐれーで使い物にならねぇとか思う奴も居ないだろうよ。」








だから、安心して、休んでおけ。


そう言って、跡部先輩は頭をポンポンと、叩いた。

もう・・・なんなんですか、滝先輩も、跡部先輩も。

なんで、そんな、今一番言ってほしいことを言うんですか。








「ありがとうございます、跡部先輩。」


「ああ。」


「本当に、ありがとうございます。」


「ああ。」


「ほんとにほんとにほんとに、ありがとうございます。」


「しつけぇ、もう良い。」


「じゃ、ちょっとマネジしてきますね。」


「あーハイハイ。・・・って、オイ!」








騙せなかった。

あともう少しで、ドアから逃げれたのになぁ。


とりあえず、夕飯まで休んでいろとは言われたけど。

もう、目が覚めて、てんで駄目。


ベッドから出たり、体を起こしたりしたら、ぶっ殺すとまで言われてしまった。


何それ。ベッドから出たり、体を起こしたりするだけで、私処刑台行き?

でも、跡部先輩は本気でやりそうだから、私は従います。

跡部先輩に冷えピタもらったし、大人しく寝てるしか出来ないのかなぁ。

・・・冷えピタは後で張り替えよう。








「ほんっと・・・だめだめ、私。」


「何じゃ、でも、しおらしくなるんじゃな。」


「!なっ、なんで、仁王さんが!」


「立海代表で、お見舞いじゃ。ブン太がな、プリン食ったか?やって。」


「あぁ、あのプリン・・・丸井さんのでしたか。やっぱり。お礼言っておいてください。」


「ちゃんと食ったんか?」


「1個は跡部先輩に預けました。冷蔵庫に入れといてくださいって。

 もう1個は、ちゃんと私が食べますよ。・・・って、なんで、本当に居るんですか。

 お見舞いなら、ありがとうございました。」


「冷たいのう。なぜ、俺に冷たいんじゃ?」


「さぁ。はっきりと分かりませんが、第一印象が悪かったことは確かです。」


「はっきり分からんといってる割に明確な答えじゃな。」


「初対面の人に対して、いきなり部屋に連れ込もうとする人、どうですか。」


「良い度胸じゃと思うぜよ。」


「・・・そうですか。・・・あの、何か顔近くないですか。すっごい違和感あるんですけど。」


「こうすれば、大体の女は落ちるって知っとるからの。」


「こんな、顔が近いってだけでですか?まさか。惚れっぽいのも考えモンじゃないですか。」








私には理解できませんね、とキッパリ言ったと同時に。

周りが暗くなった。真っ暗。そりゃーもう、目をつぶったような感覚。

・・・だけど、目をつぶってはいない。私は。








「ちょ、仁王・・・さん?なんか、目の前が真っ暗なんですけど。」


「お前さんは普通の女じゃない。言ったじゃろ。俺のドストライクじゃって。

 やけん、。お前さん、ちぃと無防備すぎるぜよ。」


「・・・・ちょ、ちょっと、仁王さん、冗談やめてくださいよ。

 私、病人ですよ。無抵抗に等しいですよ。」


「無抵抗に等しい?そりゃーチャンスじゃな。」








仁王さんの手によって、目を隠されたというのがわかった。

しかも、仁王さん、まさか、よからぬ考えを・・・という随分、自意識過剰な予想が出てきた。

いやいやいやいや。

私を襲ったって、なんのリメットもないよね。

いやいやいやいやいや。

思い出して、

仁王さんは、出会ったその日に部屋に連れ込もうとしたんだよ!



もんもんと、私の中の悪魔と天使が戦う。


悪魔の言い分はこうだ。

 仁王さんの手を振り払って、逃げろよ。信用したら、終わりだぞ!


対して天使は。

 仁王さんだって、病人で無抵抗な人間を襲うわけないじゃない。

 このまま流されてみなよ。ね?


・・・あぁぁあああぁぁ

熱のせいで頭痛が酷いのに、余計に悩ませないでくださいよ!


って、冷たい!

え?何、この冷たいの。おでこに、ひんやりしてて、








「気持ちいいかも・・・。」


「お前さんの、冷えピタ。すっごい冷たくなかったぜよ。
 
 それじゃ意味ないじゃろ。変えてやった。ありがたく思いんしゃい。」


「・・・・あ、ありがとうございます・・・・。」


「なんじゃ?予想外そうな声じゃな。

 ハハーン。もしかして、犯されるとでも思ったんか?

 まぁ、そんな予想しとるぐらいじゃ。相手してやっても良いぜよ?」


「そんな予想してません!相手もしなくて結構です!」


「まぁまぁ。そうじゃな。冷えピタ変えたし、体の汗も拭いてやろうか?

 体のすみずみ・・・まんべんなく拭いてやるぜよ。」


「結構です!」








なんか、バカなことを考えていた私が恥ずかしい!


仁王さんが帰ったあとに、

冷えピタに書いてある伝言に気づいたのは、

バカなことを考えていた恥ずかしさをやっと、忘れられたころ。


鏡の前に立って、気づいた。





 < 今晩 花火じゃ 今は ゆっくり休んで 参加しんしゃい >









仁王の発言をすべて冗談と思わずに
本気の発言と考えてみてください。

体のすみずみ・・・まんべんなく拭いてやるぜよ。

・・・・変態か!