「ちゃん、どーしたのー?熱あるのー?」
「えっいや、無いですよ!大丈夫です。」
「ちょっと、赤くねーか?大丈夫かよ、ー?」
「大丈夫ですよ、ちょっと、水持ってきますね。先輩たちも水で良いですよね。」
さっきの赤也の宣戦布告が頭から離れない。
そのせいなのか、頭もグラグラしてきた。
てゆーか、周りがボヤける。
あれ?何これ、なんか、なんか・・・
ガターンッ
「!?ちょ、オイ、跡部!跡部!」
「ちゃん!!」
体中、熱い。
―14
―
あれ、ここはドコだい?
なんで、真っ暗なんだろう。
うーん。頭が痛いぞ。体が熱いな。
あれ?でも、こっちの頬は冷たくて、気持ちいいなぁ。
あと、両方の首元も、なんか気持ちいー。
えーと、えーと。
もうちょっと考えてみよう。
私、お昼ご飯食べてたんだよね。
ジロー先輩と、がっくん先輩に挟まれて
すごくすっごーく
和んでいたよね。
・・・で、なんか、赤也の声が、言葉が、頭から離れなくて
それで、なんか考えてたら頭が痛くなって、フワフワで。
フワァっと、目が眩んで。
そうだ、最後に聞いた声は
跡部先輩を呼んでいる、がっくん先輩の声と
大丈夫!?と私を呼んでいる、ジロー先輩の声
うーんうーん
もしかして、私、倒れたのかな。
ごめんなさい、せっかくの合宿なのに
せっかく、マネジ業慣れてきたときだったのに
「ごめん・・・なさ、い・・・」
* * *
が、倒れた。
鳳が今朝、
さん、無理しているかもね
と、言っていたのは、このことだったのか?
人が倒れる音、
きっと、芥川さんが歩いている途中に寝てしまったんだろう
と、思っていたのに。
音をたどり、たどった先には、が居た。
思考が停止したが、それでも体は頭より働いていたらしい。
気づけば俺は、のすぐ側に居た。
樺地が跡部部長の命令を受けて、を運ぼうとする。
どうやら、俺の体は頭より俊敏に働くらしい。
「俺が、運ぶ。」
そう口にした時、腕はすでにの体を持っていた。
部屋に運び、ベッドに寝かせる。
跡部部長に、しばらく様子を見ておけ、と言われた。
言われなくても、そうするつもりだった。
幸村さんが持ってきてくれた、氷水とタオルをの頭の上に乗せる。
乗せたとき、ひんやりとした俺の手に触れたのが心地良かったのか
が顔をすりよせてきた。
びっくりして、思わず、手を引っ込めてしまったけど
引っ込めた自分の手を見つめ、おそるおそるとの頬に当ててやった。
予想通り、が気持ち良さそうに顔をすりよせてきた。
・・・仕方ない。
少し、腰が曲がる体勢になるが、
少し、無理な体勢で多少きついが、
・・・まぁ、我慢してやるか。
「あれー、お邪魔だったでしたかね。」
「!・・・切原か。なんだよ、に用なら、お前も無理だって分かってるだろ。」
「いやぁ、弱ってるうちに、寝込み襲おうかと・・・って冗談ッスよ、ジョーダン。」
「・・・で、なんだよ。」
「あのさー、日吉ってさ、と付き合ってるわけ?」
「付き合ってねぇよ。」
「でもさ、日吉のほうは、少なからず、好意はあるんだろ?」
「知らねぇ。」
「へー?俺さ、に超興味あるんだよねー。飽きないし。学校の女たちより、全然楽しい。」
「・・・。」
「アンタとは、テニスだけじゃなく、との面でも戦うかもしんねーな!
・・・ま、両方とも勝つのは俺だけど。」
を見ながら、舌なめずりをして、言う、切原。
その言動も、その行動も
何故だか、むしょうに腹がたった。
「俺は、負けねぇ。」
「ふーん。それは、どっちに対して?テニス??」
「さぁな。」
睨みあっていると、ドアが急に開き、丸井さんと柳生さんが入ってきた。
やってきたというより、切原を回収しに来たに等しい。
柳生さんに、後ろの襟元を掴まれたのか、
苦しいッスよ!
と叫んでいた。
柳生さんが、
すいませんね、さんが起きたら無理せずに、と伝えてください。
と、頭を下げて部屋を出ていくなか。
まったく正反対に、
丸井さんがのベッドの近くに居た。
何しているんですか、と言おうとしたとき。
の左右の首元に、プリン(しかも特大)が置いてあることに気づいた。
「熱があるときに、コレ食べっと、俺、1日で治るんだぜぃ。じゃーな。」
・・・それ、あなただけでしょう・・・。
まぁ、が気持ち良さそうにしているので、良しとしますが。
やっと静かになって。
俺がの頬にあてている手をどけたとき、ん、と少し嫌そうな顔をしたことに
なぜか、少し嬉しくて。
氷水の中に手を突っ込んだ後、もう一度の頬に手をあてた。
すると、また、心地良さそうに顔をすりよせたことに
なぜかまた、嬉しかった。
だから、手があったかくなったと思うと、氷水に手を突っ込み、の頬にあてる。
そんな行為を繰り返していくうちに、時間は経ったのか。
少し、俺も寝そうになり、カクンっとしたとき、が何か言っていた。
「ごめん・・・なさ、い・・・」
泣きそうな声で、言っていたので、驚いた。
いつものではない弱弱しい声で。
今にも泣きそうな声で、苦しそうな声で。
初めて、聞いた声。
「マネジ・・・・ごめん、な、さい・・・」
マネジ ごめんなさい
その単語だけ、聞き取れた。
どうやら、マネージャーなのに倒れたことを悔やんでいるらしい。
が結構、責任感強いというのは知っている。
が結構、負けず嫌いというのは知っている。
だから、途中でダウンしてしまった自分を夢で責めているのだろう。
そんなことはない。
お前は、よくやった。がんばっていた。
初めてマネジやって、いきなり合宿だったから、
跡部部長も、俺と鳳と樺地に、いろいろフォローするようにと言っていたけど
俺達がフォローするまでもなく、お前は動いていたじゃないか。
働いていたじゃないか。
俺がフォローしていたら、が熱出して倒れることはなかったんだろうか。
俺がもうすこし、を気にかけていたら、こんな弱弱しいを見なかったのだろうか。
謝るのは、俺のほうだ。
「、お前は頑張っていた。今は、休め。」
なぜだか分からないが、
とてつもなくを愛しく感じて
手だけじゃなく、に触れたくて
気づけば俺は、
に、口付けを、落としていた。
やっぱり、俺の体は頭より俊敏に動くらしい。
自分のしたことに、冷静に思考が働いたとき
自己嫌悪や疑問や、とてつもない恥ずかしさ。
それと、
なぜだか、ほんの少し、嬉しさも込みあげてきた。
 あれ、なんだか甘くなってる。
|