「うわぁ・・・あの、切原って人・・・上手いんだぁ。」
あっとべさーん!試合しましょーよー!って、違う人と試合中なのに、跡部先輩を呼ぶ切原くん。
丸井さんは、そんな彼に慣れているのか、切原くんの失礼な態度を気にせず、ラリーをしている。
切原くんのこと、ぜんぜん良く思っていない私だけど。
楽しそうにテニスをしている彼は事実であって、
しかも、無知な私にもテニスが上手いっていうのが分かる。
真面目に練習しなさそうな人だけど、才能だけで、あんな上手くなるものではないはず。
あんなに楽しそうにテニスをしているってことは、とてもテニスが好きなんだろうな。
・・・うん。少し、好感度は上がったかもしれない。
今、跡部先輩と試合している日吉は、そんな彼をとても気に入らないみたいで。
背中を見ているだけでも分かるぐらい、ピリピリオーラを出していた。
―7
―
クーラーボックスに氷の袋をたくさん入れて。
少し薄めたアクエリが入っているドリンクを冷やしていく。
これが、午前中最後のドリンクかな。
12時は残念ながら過ぎているけど、昼ごはんがもう少しだと思うと。
どんなご飯なのだろうかとワクワクしてくる。
さて、と。
最後のドリンクも終わってしまったし、何をしようかな。
昼ごはんが終わったあと、きっと先輩たちの練習着の洗濯。
きっと、何回かに分けて洗濯をするんだろうな。
ていうことは、1回目を洗濯し終わったら、2回めを洗濯して、1回目のを干しにいく。
その繰り返しか。
・・・うわぁ、結構重労働になりそうだなぁ。
休憩時間までの時間を計算して、ドリンクもちゃんと作っとかなきゃ。
こりゃー、こんな暇っぽいのは今ぐらいだなぁ。
昼からは忙しくな「ごめんね、ちゃん。冷やすもの、くれるかな?」
「!ゆ、幸村さん!どうしましたか?」
「少し、暑さにやられてね。木陰で休もうかと思って。」
「だだ大丈夫ですか?あ、ここ、どうぞ。今、冷やすもの持ってきますね。」
木陰で体育座りをしていたところ、幸村さんがやってきた。
幸村さん、暑さにやられたって・・・大丈夫かな。
すごい失礼かもしれないけど、病弱そうというか・・・なんか、儚いもんな。
クーラーボックスから、氷袋を取り、氷を何個か取ると、救急バックから氷のうを取り出して入れた。
タオルで氷のうを拭きながら、幸村さんに渡すと、ありがとうと笑って御礼を言われた。
・・・よし。この儚げスマイルにも慣れてきたぞ。
「ちゃんは、手際が良いね。」
「そうでもないですよ。日誌とか、跡部先輩に怒られてますもん。余計なことを書くなって。」
「そっか。・・・氷帝は羨ましいな。ちゃんとしたマネージャーが居て。」
「そういえば、立海はマネージャーとってないんですか?」
「まともにやれる人が居ないからね、俺の学校だと。みんな、キャーキャー言って使い物にならない。」
「(使い物にならないって・・・。)私のところも、みんなキャーキャー言ってますよ。」
「ちゃんは、跡部たちに興味はないの?」
「変わった先輩たちだな、と思います。
鳳くんは、良い人で、樺地くんは跡部先輩思いな人。日吉は、親友。
それぐらいの感情ですね。顔立ちとかは、素直に綺麗だと思いますけど・・・。」
氷のうをおでこに乗せて、顔を後ろに倒していた状態の幸村さんは、そうか、と言って、笑った。
幸村さんの学校は、昔ながらの強豪だって滝先輩が言っていた。
強豪なりに、氷帝ほどまで行かないだろうけど、人数も多くいるんだろう。
それなのに、マネージャーが居ないのは、とても辛いし大変だと思う。
けど、いわゆるファンとかをマネージャーにしたら、
それこそ大変だろうから、マネージャーをとらないんだ。
「あの、おでこに乗せても、体の芯から冷えませんよ。首の後ろを冷やしたほうが良いんです。
私が抑えてるんで、幸村さんは楽な姿勢で居てください。」
「ありがとう、苦労かけるね。」
「いえいえ。」
「良いマネージャーだね、ちゃんは。」
「良いマネージャーを目指していますからね。」
「ふふっ・・・。あぁ、そうだ。仁王と赤也がちゃんを気に入ったようだけど、大丈夫?」
「ずいぶん迷惑ですけどね。まぁ、それほど支障はないですよ。」
「迷惑なんだ?・・・本当、今までに無いタイプかもしれないね。」
「私は、至って平凡な人間なのですが。ある意味で、ドキドキしますよ?冷静な性格じゃないんで。
だけど、胸きゅんはしませんね。だから、私が仁王さんや切原くんと変な関係になるはずないんで、
そこは絶対、ぜーったい、安心してくださいね。」
「ちゃんにかぎって、そんなコトはあるはず無いよ。
どちらかと言えば、仁王と赤也が度の過ぎたスキンシップしそうで、心配かな。」
「アハハッ。それもそうですね。」
こっちで休んでいる幸村さんに気づいたのか、切原くんが、幸村部長ズリーっすと叫んでいる。
それに気づいた、ジロー先輩が、あとべー俺も寝たEと言っている。
ぎゃーぎゃー騒いでいると、二人とも叩かれた。
それぞれの、ボスに。
切原くんは、真田さんに。ジロー先輩は、跡部先輩に。
跡部先輩の叩きにくらべて、真田さんの叩きのほうが数段痛そうだったので。
二人の違いに思わず、笑ってしまった。
「あー・・・疲れたー。疲れたー。ー!つかれたー!」
「がっくん先輩、そんな疲れた疲れた言っても、私は癒せませんよ。」
「向日、さっさとシャワー浴びてこよーぜー。俺、汗ばっかでキモチワリー。」
「宍戸先輩って、がっくん先輩と違って汗が似合う男ですよね。」
「宍戸は、暑苦しい男だからな!」
「爽やかな男だと言え!、お前が洗濯すんだろ?どこに練習着は置いておけば良い?」
「シャワールームに、でっかいハコが有るので、そこに入れてください。
紙が貼ってあるんで、分かりやすいですよ。」
「ああ、分かった。サンキューな。お前も、お疲れ。」
「そうだなっ。も、マネジやりたてのわりに、かなり頑張ってたしな!お疲れー!」
宍戸先輩には、ポンと頭に手を置く程度のお疲れの合図をされて。
がっくん先輩には、がっくん先輩より少し背が低いためか、わしゃわしゃーっとお疲れの合図をされた。
なんだか、久しぶりに先輩たちと絡んだ気がして、少し嬉しかった。
「岳人も、宍戸も、はよ行こうやー。べとべとで気持ち悪ぅてかなわんわ。」
「あ、忍足先輩。タオル、落としましたよ。」
「お。おおきに、。お疲れやな、シャワー浴びひんの?」
「私は、先輩たちのように汗かいてませんし、大丈夫ですよ。」
「そかそか。じゃ、先に行っとくるわ。自分は、クーラー有るところで、涼んどき。」
「じゃーな、!また後でなー!」
「ドリンク、冷えてて美味しかったぜ。昼のも頼むな。」
手を振り終え、クーラーとソファのある部屋に進もうと、後ろに振り向くと。
日吉と、樺地くんが居た。
いきなり、ズーンと居たので、一瞬前が見えなかった・・・。
「日吉、樺地くん。シャワーは良いの?早く行かないと、全部埋まっちゃうよ。」
「鳳を待ってるんだ。あいつ、タオルが無いとか言って部屋に戻りやがった。」
「そっか。ね、ドリンク、冷え冷えだったでしょ?」
「ウス。暑い日だったので・・・助かり・・・ました。」
「そっかそっか。昼はもっと暑くなるだろうからねっ。もっと冷やしとくね!」
あぁ、ありがとう。と、ぶっきらぼうに言う日吉と。
ウスはウスでも、お礼をこめたウスの樺地くん。
しばらく談笑していると、鳳くんがごめーんって来て。
日吉に怒られながら、3人ともシャワールームに向かって行った。
幸村さん。
やっぱり、顔立ちとか関係ないんですよ。
お疲れさま、って言ってくれたり。
頑張ったなって頭をポンって叩かれたり、わしゃわしゃってされたり。
頑張って作ったものも、美味しかったよとか言ってくれたり。
そんな些細なことでも、私にはすごく嬉しくて。
そういうことをしてくれる先輩たちだから、私は頑張れるんですね。
|