困った、あぁ、困った。
クリードが一体どうして私と一緒に居るのかなんて、知ってたはずなのに。
なんとかしなくちゃ、この状況。
目の前からの、強く、ねっとりとした視線を感じながら、ため息。
あの日、繋いだ手
-4-
きっと、レギュラスは必死に探しているだろう。
こちらから連絡できればいいのだけれど。
「、どうだ?俺との縁談に良い返事をする気になれたか?」
「申し訳ないけど、それは出来ない。…と、さっきから言っているのだけど。」
「そうか、まぁそんな強情なところも俺は好きでな。
この部屋は、お前が良い返事を聞かせてくれるまで
中から出れないようにしている。時間はたーっぷりあるんだぜ、?」
目の前に居るやつが、にやにやと笑う。
こいつの言い分は、実に簡単なことだ。
俺と結婚すると書面に記さなければ、この部屋からは出さない。
実に卑怯だが、確実な強行手段だね、よく君が思いついたよと言いたい。
魔法が使えればこんな部屋、ぶっ飛ばすことなんてできるのだろうけれど
杖をとられてしまっては、私はただの眼帯をしている女だ。
「あ、そうだ。なぁ、。俺、お前との縁談を成功させる良い方法を思いついたぜ?」
「へぇ、それは凄いじゃないか。ぜひとも聞かせてくれないかな。」
「もちろん良いぜ。実に簡単なことさ、。状況に屈しなければ、力で屈しさせればいい。」
「うん、とても最悪な方法だ。」
「どうした?顔がこわばっているぜ。」
さて、どうしよう。
* * *
目の前に広がる地図は、僕を驚かすには十分だった。
だって、たくさんの足跡が勝手に動き回っているのだから。
しかもご丁寧に、名前と一緒にあるおかげで、その足跡が誰のものかわかる。
どうしてセブルスさんの目の前に都合よく彼らが現れるのか分かった気がする。
…言ってみようかな、セブルスさんたちに。
「本当はスネイプと仲の良い君に見せるものじゃないんだけどね、秘密を守ると約束したから。」
「…僕が破るとは思わないんですか。」
「思わないよ、君はシリウスに似て、意外と義理がたいからね。」
にこにこと、何を考えているかわからない笑顔でそう言われると、
ありがとうございますと言うべきか、そうですかと言うべきか、わからなくなる。
…なんていうか、怖いかも、しれない。やっぱり言わないでおこう。
「あ、居たよ、レギュラス君。これじゃないかな?この足跡。」
「本当だ!これがさんの場所…!」
「あれ?ねぇジェームズ、見つけたけど僕の記憶が正しければここは「廊下だね!」
「そう、廊下だったよね。ただの廊下であってドアなんてあったかな…?」
「僕、知ってるよ。その廊下、前に部屋があったんだけど、何故か中で魔法が使えなかったり
ドアが開きにくかったりしたから、誰も入らないようにドアを壁とおんなじ模様にしたんだって。」
「でかしたピーター!それだ!」
じゃあそこに行けば、と身体が準備する前に
兄さんが僕の手を握っていた。そして、
行くぞ!レギュラス!
と、僕の手を引っ張り走り出した。
手を繋いだのなんて何年ぶりなんだろう。
僕を引っ張る、この強引な行動をされたのも何年ぶりなんだろう。
さんが危ないっていうのに、すいません、さん。
不謹慎だけど、今僕、嬉しいみたいです。
* * *
「それ以上近づくな。」
「ははっ。それはそれは無茶な願いだなぁ、。
考えてもみろよ。お前が必死に開けようとしたそのドアは開かなくて、
お前の杖は俺が持っていて、お得意の魔法は使えない。
それに、その眼帯のおかげであまり視野も広くないだろう?」
「…それがどうしたって言うの。今まで私はこの眼帯をつけて生活をしていたんだ。」
「俺は分かってるぜ。クリードはお前の護衛役ってだけじゃないはずだよなぁ?
なぜならの眼帯側にいつもクリードは居たからな。塞がれた目の代わりをしていたんだろう?」
…まぁ、気づく人は気づくんだけどね。
それを、さも俺様頭いいからなというような顔で言われると少し笑えるね。
そんなのどかな状況でもないんだけれど。
決して広くもない部屋に、一定の距離を保とうなんて無理だ。
その証拠に、私がどんなに後ずさりをしても、あいつとの距離は確実に縮まっている。
あぁ、最悪だ。冷静を装って見ているけど、内心は助けてって気持ちが強い。
私も、バカじゃない。
彼がやろうとしていることはつまり、男女の営みってやつだ。
無理やりにでも子供を私に身籠らせて、その相手であるあいつと結婚するということ。
卑怯かつ汚らしい、さらに加えれば「私」というものをバカにしていることに腹が立つ。
「大体さ、君、‘’よりも‘’が欲しいんでしょう。
私個人が欲しいわけじゃない、というブランドが欲しいんだ。」
「当たり前だろう!?政略結婚なんてここらじゃどこだってやっているぜ!
俺らみたいな中級が上級になるには、みてーな女を手に入れるのが一番確実なんだよ!」
「ここらじゃどこだってやってる、なんて私には関係ない。私はそんなことで結ばれたくない!」
「は、お前が気に入ってるレギュラス・ブラックだってな、ブラック家という純血の血筋を守るために
血のつながりのあるものと結婚する可能性だってあるんだぜ?
お前の家だって昔ながらの純血だからな。歴史の中に身内同士の結婚なんてあるはずだ。
愛だ恋だの、夢見ごと言ってる世じゃねーんだよ。」
悔しいけど、確かにそれはそうだろうな、と思う。
純血が少ない中、純血の血筋を守るためにそういった血の繋がりのあるもの同士での結婚はある。
だからといって、私は過去の家の人間を蔑むわけじゃない。
過去は過去、今は今だ。過去はどうあれ、私は、愛だ恋だという抽象的概念を大事にしたい。
「な、諦めろよ。愛だ恋だの、信じてるのがアホらしいぜ。
家族愛も兄弟愛も恋愛も、この世界にはねーんだよ。
レギュラス・ブラックとシリウス・ブラックが良い例じゃねぇか。
兄弟なのにライバル寮というだけで、兄は弟を毛嫌いしている。」
「ちがうね。確かにレギュラスはシリウス・ブラックと、仲が良いわけではないけど
どっちもただ不器用なだけのはずだ。大体、兄弟同士が嫌いあうなんて悲しすぎる!」
「だーかーらー兄弟愛も家族愛も、恋愛もこの世界にはねーの!あるのは権力!血!金だ!」
「ちがう。私がクリードやレギュラス、そしてセブルスと一緒に居る理由に、権力も血も金もない。」
「上級の純血一族が何夢見ごと言ってるんだよ、なぁ、目を覚ませって。」
「私からしてみれば、キミの方が目を覚ますべきだと思うけど。」
「あー!わっかんねーやつだな!もう良い!」
理解しようとしない私にいら立ったのか、興奮しきった顔で目の前のこいつが言い放った瞬間
私が背を向けていたドアが、どかん、と噴煙を立ち上らせた。
長く居た、暗い闇から一筋の光。
「さん!」
「レギュラス…?」
「やべぇ、加減がわからなかった…怪我してねーよな?」
「シリウス・ブラックまで…。」
「良かった…さん、ご無事で、良かったです…。」
「レッレギュラス!てめぇ、何、グリフィンドールとつるんでやがる!」
「あー?弟の傍に兄がいちゃワリィのかよ、おい。」
「兄さん、早くどいてください!さんをこっちに…!」
「な、レギュラス、てめっ協力してやった兄に対する態度か、ソレ!」
そこに居たのは、先ほど論争で名前が挙がった、ブラック兄弟だった。
上級の純血一族であり、兄は弟を、弟は兄を、嫌い憎しみあってると言われている、二人。
その二人が、ともに行動をしている。私は見事に無様な状況ながらも、嬉しかった。
やっぱり、この世界は権力と血と金だけではない。
家族愛、兄弟愛、恋愛だって、そういう抽象的概念は必ずあるんだ。
見てよ、さっき、夢見ごとと言ったそこのキミ。
レギュラスとシリウス・ブラックは、口げんかしているけど
あんなに楽しそうな二人の笑顔、初めてだと思わない?

キリバンを踏んでいただいた、yua様へ。
次で、終わりです。とりあえず二人の確執を脳内だけでも補完したかったんです←
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