居たはずの場所に、居ないさん。
さんが一人になった時、変なことを考える輩としては、絶好のチャンスに違いない。
さっきまでの僕のように、執拗に迫られているのかもしれない。
さんは、自分の意見をはっきりと言うし、とても強い人だけど
あの人は、僕とちがって、女の人なんだ。
力で、どうにでもなれる。
それを、クリードさんも恐れていたんだ。
あの日、繋いだ手
-3-
さんが居たはずのベンチの少し遠くに、レイブンクローとスリザリンの集まりが居た。
僕は、それを見つけると同時に駆け寄り、さんに近づいた奴が居なかったかということを聞いた。
よほど、僕が焦っているのが珍しかったのか、それとも、僕が切羽詰まった表情をしていたのか、
どうしたんだ?と、最初に心配をされた。
「俺、が珍しく一人だったから、少し気になっていたんだ。
ちょくちょく目をやっていたから、誰と話していたかは分かる。
えーと、スリザリンのMs.ナイトレイとMs.フリークと話していた。
そのあと、スリザリンの1年っぽい奴と話してたな。」
「…男の人とは、話してなかったんですか?」
「男…あーそうそう。シリウス・ブラックと話していたぜ。
そういえば俺が、誰かと話しているを見たのはそれが最後だな。
少しの時間だったけど、俺ら全員、先生に呼ばれたんだ。」
「そうそう。そんな大事な話じゃなかったからすぐ終わったんだけどな。」
「ここに戻って来た時、もうは居なかったぜ。」
兄さんと、さんが…?
…少し変な組み合わせだし、兄さんがスリザリンと話すなんて思えない。
もしかして、セブルスさんと繋がりのあるさんが一人だったから、ちょっかいを出したのだろうか。
なんにせよ、兄さんがさんにカッとなって、無理やり連れ出したのなら、僕の中でも説明がつく。
さんは、売られた戦いは買うタイプだ。
「ありがとうございました、では、僕はこれで。」
「おー。じゃあな。」
兄さんがさんを連れ出したに違いない。さんが見つかりそうで、少しだけ安堵した。
そして、もうこれから先近寄ることはないであろう、グリフィンドール寮へと僕は、走った。
セブルスさんもクリードさんも、今日はホグワーツには居ない。
先生の用意した罰は、薬草の収集だから、遠くまで行っているはずだ。
だから、僕が、僕がなんとかしなきゃ。
首を横に振りながら早歩きをし、兄さんを探す。
女の情報網に頼ったらもっと見つかりやすいかもしれないが、
そもそも、執拗に迫る女のせいで、さんがこんなことになったんだ。
女の手なんか、借りるものか。
そう考えながら、走っていると、案外簡単に見つけた。兄さんの‘いつものメンバー’と一緒に。
本当は、話しかけることがすごく怖い。誰だって、嫌われている人に話しかけるのは怖いはずだ。
だけど、僕が、なんとかしなくちゃいけないんだ。
「兄さん!」
すごく久しぶりに、大声を出した。
すごく久しぶりに、兄さん、と声を出した。
兄さんは、少し驚きながら、レギュラス、と呼んでくれた。
「兄さん!さんを知りませんか!?」
「?スリザリンの、あのか?」
「兄さんが、連れて行ったのでしょう!?」
「はぁ?俺が?連れてってねーよ、さっき少し話しただけだ。」
「う、嘘だ…!じゃなきゃ、さんは、どこに…!」
「嘘じゃねーよ、レギュラス。どうしたんだ、落ち着け。」
どうしよう、どうやら、さんは兄さんと一緒に居たわけじゃないみたいだ。
じゃあさんはどこに?変な輩に連れて行かれたとでも?
そうなったら、おしまいだ。さんは、女の人なんだ。女性なんだ。
男の人の力に、かなうはずがないんだ…。
勢いで、兄さんの制服を掴んでしまったのは良いが、離せない。
僕は、悔しさを手に力をこめることであらわしていたから、力をとくことが、出来なかった。
僕より数段高い兄さんの制服にしがみついて、バカみたいだ。
ものすごく、ガキだ、僕は。兄さんに、自然に頼ってる僕は、ガキだ。
悔しさと、やるせなさと、さんを探したい気持ちが混ざってる時、
僕の頭にぽんぽん、と手が乗った。
昔、僕が泣きそうになると、兄さんはいつもこうやってくれた。
大丈夫だぞ、レギュラス。大丈夫だから。兄ちゃんがなんとかしてやるからな。
そう言いながら、兄さんは僕が落ち着くまで頭を撫でてくれた。
「大丈夫だ、レギュラス。大丈夫だから。
兄ちゃんがなんとかしてやる。何があったか話せ、レギュラス。」
どうして僕に優しくしてくれるのだろう。
兄さんが嫌いなはずの、スリザリン生なのに。
兄さんが嫌がるはずの、母さんの言うことを聞く弟なのに。
* * *
「なるほど、つまり、・が誰かに強制連行されたかもしれない、と。」
「さんは…仮にもブラック家やマルフォイ家と並ぶほどの名家です。
そのブランドを欲しがる輩、執拗に縁談を迫る輩も、当然居ます。」
「俺やレギュラス、あとスリザリンのMr.マルフォイは男だからな。
ただ、女が執拗に迫るだけだった。実際女なんて怖くはねーし。」
「だけど、さんは、僕と違って女性です。
だから、クリードさんはいつも一緒に居て護衛役していたのに、
そのクリードさんに頼まれて僕が今日は一緒に居たのに…っ。」
自分のふがいなさに、へどがでる。あんな女のところなんて行かなければ良かったんだ。
話を聞く、と言ってくれた兄さんは、スリザリン生の僕に気遣って、
誰も居ないような部屋に連れて行ってくれた。
ジェームズと呼ばれている人が、探偵のように、僕の話を聞く。
リーマスと呼ばれている人に、甘いものは落ち着くよとチョコをもらった。
ピーターと呼ばれている人も、キャンディーをくれた。
兄さんは、僕が落ち着くように、昔のように、頭を撫でた。
「安心して、レギュラスくん。あの子の居場所を見つけるのは簡単なことなんだ。
問題は、彼女がどういう状況に陥ってるか。話し合いなのか、強制なのか、だけ。」
「どういうこと、ですか。」
「今からすること、スネイプやクリード・アークス、そして・にも秘密だよ?
そしたら僕たちが、あの子を絶対に、必ず、見つけてあげる。約束できるよね、レギュラスくん。」
ジェームズと呼ばれている人が、不敵に笑った。
「秘密を誓います。さんを、見つけてください。お願いします。」
初めて、人に頭を下げた。だけど後悔はしなかった。
とにかくさんを無事のままで見つけたかったからだ。

キリバンを踏んでいただいた、yua様へ。
どうして私が書くジェームズは胡散臭いんだろう。

|