「ありがとうございます。
だけど、ごめんなさい。僕はまだ、そういうの良いんです。」
「なんで…?レギュラス、好きな人居ないんでしょう?
付き合ってみてよ、大好きなの、お願い。」
せっかくさんと話していたのに、そう思いながら
目の前のこの女から、どう逃れようか考えていた。
さん、一人にしてしまったし、早く切り上げなきゃ。
クリードさんに怒られてしまうかもしれない。
あの日、繋いだ手
-2-
「…貴方が僕に好意を寄せてくれた事は、とても嬉しく思います。
だけど、残念ながら僕はその好意を返せない、それだけです。
では、用事があるので失礼します。」
「なっ…ちょっと待ってよ、レギュラス…!」
この場から離れようとしたとき、手を後ろから掴まれた。
誰かは予想は付いている。先ほどから、執拗に迫るこの人だ。
いい加減、うんざりしてきたというのに。
「…レギュラスって、シリウスの弟なんでしょ?
レギュラス、私のこと振るんだったら、シリウス紹介してよ。」
「…僕が兄さんと似ているから、好意を寄せていた、ということですか。」
「あ…そういう、わけじゃ…。」
「それとも、ブラック家というブランドですか。
どちらにしろ、兄さんと僕はあまり仲良くないんで自分で迫ってください。」
少し、僕らしくもなく、優しい言葉と笑顔じゃなくて
強めの口調で軽蔑を帯びた目で、対応してしまった。
これぐらいで怒るようじゃ、セブルスさんに短気ですよなんて言えないな。
「レギュラスってさ…シリウスとやっぱり似てない。
シリウスのほうが断然優しいし、付き合ってくれるもの!
レギュラスの方が優しくて、押しに弱いと思ったのに!」
「そうですか、見当違いでしたね。では。」
…兄さんの方が、優しい、ね。
あの人には、そう見えるんだろうか。
僕には、自分のしたいことを好きなようにやってるようにしか見えない。
他人への優しさとか気遣いとか、そういうのが兄さんにあるとは思えない。
だって、一昨日もこの前見た時と違う女と一緒に居て、しかも修羅場だった。
それなのに、兄さんじゃ届かないから僕、という形の告白は多い。
兄さんって、そんなに魅力的なんだろうか。
僕には、わからなかった。
大分遠く離れたのに、後ろのほうでさっきの奴がまだ騒いでいる。
比較的大人しい僕なら、自分の思い通りにできるとでも思ったのだろうか。
なんて浅はかで、愚直なんだろう。
屋敷しもべ妖精のほうが、よっぽど頭が良い。
無駄な時間、過ごしてしまったな。
速足でさんのところへと、行く。
…少し遠くまで、離れただけだった。
拒絶に少し時間かかったというだけなのに、
どうして、居るはずの場所に、さんが待ってないんだろう。
さんは確かに自由で気まぐれだけど、クリードさんが居ない分
自分ひとりという行動は慎む、わざわざ一人で歩くような行為はしないはずだ。
だけど、少し前まで「ここに居てくださいね」と僕が言ったその場所に
さんは、いや、人一人さえ、居なかった。

キリバンを踏んでいただいた、yua様へ。
びっくりするほど、教授の出番がありません。

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