今朝、寮監に怒られている兄さんを見た。

兄さんを見ている僕には、兄さんは気づかない。

僕が一方的に兄さんを気にしてるみたいで、


少し、悔しかった。









あの日、繋いだ手
    -1-








僕は兄さんが、分からない。

存在を?というわけではなくて

考えていることが、わからない。


僕だったら、わざわざ怒られるようなことはしない。

僕だったら、火に油を注ぐような行為なんてしない。


親の敷いたレールで生きたいのか、って兄さんは言ったけど

僕には別段、やりたいことなんてないし

自身で決めて選択したことが親の敷いたレール上だったのだから

しかたない、じゃないか。


兄さんから、寮監が離れて

隠れていたジェームズ・ポッターたちが、兄さんのもとへと行く。


そういえば、兄さんは、この学校に居る間はよく笑う。

…あの日、僕たちがまだ仲の良かったころみたいに。







「レギュラス?どうしたの、ボーっとしていたよ。珍しいね。」


「…あ、さん。」






いつの間にか、目の前にさんが居た。

兄さんは、さんの声で僕の存在に気付いたらしく

先ほど見ていた方向から、視線を感じる。


兄さんは、僕を嫌いになったらしい。

ミーハーなグリフィンドール寮の雌どもが、言っていた。


シリウスって弟のレギュラスのこと嫌いみたいねー


通り過ぎるときに言ったのに、なぜか僕の心に焼きついたまま。

でも、仕方ないな、という変な納得をした。


あの頃のように、手を繋ぐことも

あの頃のように、笑いあうことも

今ではもう、出来なくなっていたし


兄さんは、めったに家に帰ってこないし

この「ブラック家」自体を嫌っているということは

その「ブラック家」の僕のことも当然嫌っているだろうから。






「すいません、さん。ちょっと、考え事していました。」


「大丈夫?今日は暑いから、少し火照ってしまったみたいだね。

 部屋に戻っていた方がいい。私が、寮の入り口まで送ろう。」


「いえ、大丈夫ですよ。それに今日は僕が、クリードさんの代わりですから。

 しっかりお役目を果たさなきゃ、クリードさんに怒られちゃいます。」


「そっか。気持ち悪くなったら言うんだよ、レギュラス?

 ごめんね、クリードがただ過保護なだけなんだ。」







苦笑いしながら、さんが言う。


そう。今日は僕がクリードさんの代わりに、さんの隣に居る。

学年が違うけど、今日は休日だから授業なんて気にしなくて良い。


クリードさんは、セブルスさんと一緒に罰を受けている。

あのジェームズ軍団のせいで、上手く罠に引っ掛かってしまい

先生に水をかけてしまったからだ。







「別に危険なんてないのに、と思うけど。」


「わかりませんよ、さん。
 
 ミーハーで変なことを考えている輩はたくさん居ますから。」






さんの家は、格式高い名家で、代々続く純血族だって聞いた。


そういえば、実家に帰省した時、たまたま来たさんからの手紙で

母さんが「家と友達になるなんて親孝行だわ!」

と、喜んでいたのを、よく覚えている。

その時の僕は、家同士のことを考えるにはまだ幼すぎたから

母さんの喜びようでさんの家のことを、知った。


別に母さんに喜ばれるためにさんと仲良くなったわけじゃない


それは、初めて抱いた母への反発心と言葉だった。

決して、外に漏れることはなかったけど。


だから、家というだけで縁談を持ち込もうとする輩は多い。

クリードさんはいつもさんの傍に居て、変な輩に連れて行かれないよう守っている。








「…さんは、さんの家は、変なしきたりとかあるんですか。」


「うん?珍しいね、レギュラスが私の家のこと聞くの。」


「あっすいません、ただ、さんとゆっくり二人で話すのは初めてだから。」


「そうだね。初めてだね、じゃあ、たくさんお話をしよう、レギュラス!」


「ありがとうございます、さん。」







さんの隣は、心地いい。

この人は、良くも悪くも詮索をしないから

あまり自分のことを話したくない僕には、とても心地いい。


それに、さんは家のことなんて気にしないでお話してくれる。

もちろん、兄さんのことも僕とは話さない。

レギュラス・ブラックという僕自身を見てくれている。


だから、僕はさんの傍に居ることがとても楽しいし、心地いい。







「私の両親はね、とても尊敬できるし、血云々よりも技術、っていう人なんだ。

 だけど、祖母や祖父は血云々に対してはとても厳しい人だった。

 祖母や祖父の方が家に居ることが多いから、友人が遊びに来るとまず名前を聞くんだ。」


「それ、僕の家もそうです。友達ができた、というと、まず名前から聞いてきます。

 やっぱり、どこの家も同じなんですねぇ。子が繋がれば親も繋がろう、ということですか。」


「そうだよね。まぁ、私たちが生まれる前からそういう感じだったんだろうから、

 もう当たり前のことなのかもしれないね。でも、少し悔しいよね、そういうの。」


「悔しい…、ってどういうことですか…?」


「だって、私たち子供側がらしてみれば、名前で友達になれたんじゃないのに。

 親に喜ばれるために友達になったんじゃないのに、って、私はすごく悔しかったよ。」






さんの言った言葉は、僕が数年前に抱いた反発心。

母さんには絶対に言えなかった、言葉。


そうだ。僕は、悔しかったんだ。


さんと友達になったことを親孝行だと言われたこと、

簡単に母さんの期待を裏切られる兄さんを見ていること、

兄さんが僕のことをどうでも良いと思っていることが。









キリバンを踏んでいただいた、yua様へ捧げます。
ありがとうございました!

レギュラス夢、ということで、私も少し書きたかった小連載をしようと思います。
レギュラスは私も大好きなんです。兄との確執、少しはほぐれれば良いな。