シリウス・ブラック、レギュラスが来たぐらいでは、彼は私の手を離さなかったけど

ジェームズ・ポッターが後から来たとき、彼はあっさり手を引いた。


そうだね、それが得策だ。たとえ君が私を人質にしていたとしても、

彼らには到底かなわないだろう。









あの日、繋いだ手
  −5−








さん、すいませんでした。僕が目を離したばかりに…。」




申し訳なさそうに、私と目を合わせようとしないレギュラス。

ふと視線を落とすと、彼の右手が彼の左手をやけに力を込めて握っているのを見た。

それを見て、私は、レギュラスを包むように抱きしめる。





「えっ、あの、「レギュラス。助けを呼んでくれてありがとう。」





可愛い可愛い私の後輩、レギュラス。そんなに自分を責めないで。

私はね、今嬉しいんだよ。ごめんね、不謹慎で。


レギュラスが、シリウス・ブラックを口ではなんと言おうとも

本当は気になっているの、知っていたんだ。



ずっと話したかったんでしょ?面と面を向かって、話したかったんだよね。

だけど、シリウス・ブラックが弟のレギュラスを嫌っているという噂は

学校中に広まっていたし、レギュラスも兄のシリウス・ブラックを嫌っていると

みんながみんな、そう思っていた。だから、怖かったんだよね。


昔、繋いでた手を、いとも簡単に拒否されるのが。




「大丈夫だよ、レギュラス。助けに来てくれて、本当に嬉しかった。ありがとう。

 シリウス・ブラックたちを、連れてきてくれて、本当に助かった。ありがとう。」


さん…っ無事で、良かった…本当に、良かったです…っ」




泣きそうな顔で言う、レギュラスをあやすように背中を優しくポンポン、とたたく。

片方の手は、レギュラスの頭の上に置き、頭をなでる。


そんな私たちを見て、心底ホッとしたような顔で見るのは、兄のシリウス・ブラック。




「シリウス・ブラック。お礼を言うよ、ありがとう。本当に。

 さすがに身の危険をビンビンに感じていたからね。助かった、ありがとう。」


「スリザリンのお前の為じゃねーよ、バーカ。…レギュラスが、困っていたからだ。」


「可愛い可愛い後輩の、レギュラスの為にありがとう。」


「っあーあーあー!ありがとうしか言えねぇのか!もう良い!言うな!」


「…兄さん、うるさい。」


「なっ、てめっ、レギュラス!」


「近寄らないでください、僕とさんの大事な時間を邪魔しないでよ兄さん。」




いつの間にか、レギュラスの両手は私の背中にあり、私の抱きしめに応えるカタチとなっていた。

それを見た、シリウス・ブラックが、




てめぇ!!俺の弟と不謹慎な行為してんじゃねぇ!


と言ったのが、本当におかしくて、笑った。




「兄さんの方が、不謹慎というより不潔な行為ばかりしてるくせに。」




うん、的を射てるよ、レギュラス。私もそう思う。








* * *







僕たちがギャーギャーやっている間に、ジェームズ・ポッターたちは彼をマグゴナガル寮監に差し出し

少々話を盛りつつ、報告をした。彼ら曰く、嘘は言っていない、そうだ。


家族愛も兄弟愛も恋愛も、この世界にはねーんだよ。


そう言っていたと、さんが言っていた。悲しいね、そんなことはないのにね、と付け加えて。

彼は、しばらく外出禁止となったらしい。

外出禁止が解き放ったあとは、毛嫌いをしているグリフィンドールのジェームズ・ポッターたちを見るたび

なぜか怯えた様子で、我関せず、我空気、という感じになっているのが少し気になった。



どうして彼が外出禁止になったのかという真相は広まっていないけど、

そのかわり、ブラック兄弟が仲良くなっているという噂はたちまち広がった。


その噂を聞きつけた女たちが、女遊びの絶えない兄さんじゃなく、僕とお近づきになろうと

休み時間だろうがなんだろうが、積極的に迫ってきていた。もちろん、笑顔で断っているけど。




あの一件以来、僕は連れて行かれる前に、バッサリ断るようにしている。




ごめん、親が決めた婚約者が居るから、と。



この理由じゃ、女たちは近づけない。

たまにそれでも、という子が居るけど、そういう子には



親が決めた婚約者にバレたらどうするの?



という言葉で返していた。


ブラック家が決めた婚約者というんだから、相当な権力だし

そんな婚約者にバレたら?それはもう、一族崩壊と言ってもいい。


まあ、婚約者なんて居ないのだけど。





「レギュラスー居た居た、あのさー、「兄さん、僕は今さんと話し中です。」




確かに、僕と兄さんは、前よりも仲良くなっていた。

いや、あの頃に戻ったという方が正しいかもしれない。


セブルスさんやクリードさんは、嫌そうな顔をしていたけど

まあ兄弟だからなという納得をしていた。



もちろん、あの足跡がいっぱいあった地図は、誰にも話していない。

話してないだろうね?という確認は、こないけど。



僕と兄さんは、昔よりも手をつながなくなった。

もう兄さんの手を引いて、歩く歳じゃない。


兄さんのことを目で追うこともなくなった。

目で追わなくても、見かけたら話しかければいい。

兄さんも、話しかけてくれる。



相変わらず、家には寄りつかないけど。


兄さんが、僕を嫌いじゃないということもわかったし

兄さんは兄さんで、僕は僕で、そうやって歩いて行くしかない。


兄さんのことは相変わらず分からないけど、もう考えない。

だって、兄さんであることには変わりはないのだから。


気になるなら、話しかければいい。


僕たちに、壁はもうないんだから。








キリバンを踏んでいただいた、yua様へ。

ついに終着。仲が険悪なブラック兄弟像、弟が兄を憎んでる像、仲良しな兄弟像、本当にたくさんの兄弟像があります。
私は、やっぱり、血のつながった兄弟だから、お互い干渉はせずとも憎み合ってないと良いなって思います。