その日、私は絶叫した。 己の身体の弱さに、精神の弱さに。 そして、己の不運に。 01.教科書がない。 「信じられない。こんなこと、認めるものですか!」 騒がしい教室。 私は一人、机の中を漁り、絶叫した。 「教科書を忘れたなんて!信じられない!」 まあ不運というよりは自分の欲に負けてしまった結果なんですけどね。 何故昨日、ちゃんと宿題をしようと思ったのか。 何故昨日、かばんの中にしまおうとしなかったのか。 全ては、この私の、心構えの弱さゆえ。 眠くなってしまったという、心身の弱さゆえ。 「あんたって、真面目にバカなこと言うよね。」 「ちゃん!私は真面目に困っているのですよ。」 「ハイハイ。じゃあ、さっさと隣のクラスの子に借りてきな。 言っとくけど、今日、数Aがあるのは、隣だけ。」 「・・・隣のクラスかぁー。うーん。知ってる人居ないんだぁ。」 「へぇ。」 「知ってる人、居ないんだぁ。」 「ふぅん。」 「しってる、ひと、いない、んだぁ。」 「へぇ。」 「・・・・ちょっと!じゃあ、部活の子に聞いてあげるよ、とかないの!」 「ナイ。」 「がーん!」 「早く借りてきなよ。数学の小林は、時間に厳しいよ。」 * * * 「結局、知らない人ばっかだから話しかけられなかったなぁ。」 トボトボと、教室と教室の間が無駄に長い廊下を歩く。 あと5分か7分か、そんなんで本鈴が鳴る。 これって、エマージェンシーだよね・・・。 「9月の夏休み明けで、初めての授業に教科書を全部持ってきて、 なおかつ知らない子に貸してくれる人・・・居ないかな。」 あー、わかってるよ、。いないよね、そんな優しい人。 オーケーオーケー。 とりあえず、お腹痛くならないかな。さっき牛乳飲めば良かった。 はーーあ。と、深くため息をして、顔を上げると。 見覚えある、キノコ頭が。 「ひーよーしーーー!」 思わず、天の恵みかと思って、後ろから突っ込んだ。 否、後ろから膝カックンをしました。 突然の膝カックンのテロは私なりの挨拶です。だからそんな怖い顔しないで! 「・・・何しやがる・・・」 「助けて、日吉!私に数Aの教科書を貸して!」 「はぁ?同じクラスだろう。」 「うん、だから、日吉が忘れたってコトにしてくれれば良いから!」 「良いわけあるか!!俺は今、忙しいんだ!隣のクラスでも行け!」 「そんなー!見捨てるの、日吉。セーヌ川の畔で誓った約束は嘘だったの?」 「知らねーよ!約束なんかしてねーよ!」 同じクラス(隣の席)の日吉と、数Aを争っていると。 日吉の隣に、とっても大きい銀髪くんがいた。 十字架のネックレス・・・。キリスト教でしょうか? 「あの、俺が、貸しましょうか?数Aの教科書。」 「何言ってるんだ、鳳。お前、今日、数学ないだろう。」 「うん、ないけど。でも、教科書、ほとんど持ってきてるから。」 ね?だから、貸してあげるよ。 そう言って笑ってくれた彼の背中に、光が見えた。 あぁ、私、仏教からキリストに変えようかな。 ちゃん。 9月の夏休み明けに、初めての授業に教科書を全部持ってきて、 なおかつ知らない子に貸してくれる人、居たよ・・・! |