最近、彼氏の景吾が異様に、冷たい気がする。

花より団子な私だけど、あんなモテモテの彼の彼女だからこそ

少しの違和感に、毎日不安が積もっていく。


生徒会がどうとか、テニス部がどうとか、そんなこんなで全然会えない。


…どうせ、彼は、私のことなんて忘れているのだろう。


そんな風に、どうしても考えてしまう。











「 S・K・Y 」











「うわ、さん、めっちゃブッサイクな顔やん。目、つぶれてへん?」


「…フランスの犬を夜通しみて、泣き明かしたの。」





嘘、本当はこの恋を終わらせなきゃいけないのかな、って考えまくって

そしたら付き合いだした初期の、景吾との青春を思い出しちゃって

なんで私がこんなに泣かなきゃいけないのよって悔しくなっちゃって


そのループで泣き明かした、昨日。





「何をくだらんこと考えてよったか知らんが、冷静になりぃや、さん。」





前の机の席の忍足くんが、私の考えていることをわかっているかのように、言う。

…ちがう、きっとカマかけてるんだ。そうにちがいない。


いやぁ景吾と別れるかもなって、んなこたぁあらへんってー、

でも結構考えたんだけど、ダイジョーブや跡部はさんが好きやで


ぜったい、こういう会話を狙ってるんだ。そんなの信じないもん。

きっと、もう私たち、終わるんだもん。


そういえば、好きだけど告白は怖いという理由で、呪文のように彼に言っている言葉がある。



「S・K・Y」

それはたった3秒だけで、あなたに伝えたい言葉。

たった3文字だけで、彼を手に入れる言葉。





跡部くん、S・K・Y

はぁ?なんだ、その略式は。流行語か何かかよ、くだらねぇ。

ふふ、教えてあげー…ない!


、何さっきからオランダの写真集見てにやにやしやがる。

んー?このオランダも跡部くん、S・K・Yってことですよ。

…いい加減、そのS・K・Yってやつ教えなきゃハリ倒すぞ。

だめだめ。まだ早い、まだ早い。


S・K・Y…

アーン?何、ぼーっとしながら呟いてやがる。俺様の横顔に惚れたか?

跡部くんって、喋ると残念だよね。


…俺様が負けたら、に土下座だったか。

ううん、そんなのいらない…。跡部くんは、私にとっては、勝者だよ。

バーカ。なんで、お前が泣いてんだよ。

だって、…跡部くん、頑張ったよ。お疲れ様…っ。もう、最高のS・K・Y!







この呪文が実ったのか、私の表現があからさますぎたのか

景吾の引退の翌日、私は彼に好きだと告げられ、付き合うことになる。


その時は、本当にうれしかった。幸せすぎて昇天しそうだった。

初めて景吾と手を繋いだ時、私の手を柔らかくて可愛いと言ってくれた。

初めて景吾とデートをした日、いろんな彼を見てもっと好きになった。

初めてした景吾とのキスも、彼が見た目より緊張していたのをよく覚えてる。


考え出すと、止まらなくなった。




「っ…。ひっく…うぇっ…ひっ…。」


「…一応、言うとくけどな。泣かせたん、俺やないで。」


「うるせぇ、分かってる。お前がを泣かせたら、レギュラー落ちどころか退学だ。」


「権力振りかざすなや…。」





目の前に誰かが来たことなんて、わからなかった。

泣いている私の視界は、目の前の存在を確認することもなく、揺れた。






* * *





ふわふわの毛布、清潔感のある白いシーツ。

家のより少し硬めのベッドと枕。

…ここ、は…?




「やっと起きたか、。ひっでー顔。」


「…あと、べ?」


「寝不足らしいぜ。睡眠8時間取らねーとすぐ体調悪くなるのに、何してやがる。」


「ごめん…。」


「まったく、久しぶりにお前と二人っきりだというのに、学校じゃあ萎えるな。」


「…景吾、私と二人になれることが嬉しいの?」




寝ぼけながら、景吾に向かって、疑問をたずねると

至極見下した目で、何言わせようとしてやがるバーカ、と言った。


これは、肯定とみなしていいのだろうか。

彼は一応、私と会えなかったことで寂しがってくれていたのだろうか。




「私は、景吾が最近冷たい気がして、寂しかったよ。」


「冷たい…?俺様が?に?」


「生徒会がテニスが、忙しいって。引退したのに、現役より会えないし。

 メールしても返信くれないし、私、飽きられたのかと思った。」


「とんだドマヌケだな、てめぇは。来月の第一日曜日、何の日だと思ってやがる。」





来月の第一日曜日…?えーと…あ、私の誕生日か。…だから何?

それが忙しくて会えなかったのと関係が?景吾が冷たかったことと関係が?





「来月、平日だが無理やり5日間連休を入れた。学校にはもう話をつけている。

 今年は偶然にも学校行事が休日にやるからな、しかし振替休日にするには後が大変な時期だ。

 そこで、急きょ振替休日をまとめた5日間連休って奴を作らせたんだよ。」


「わー、連休増えるんだぁー。…て、まさかそれを作るために忙しかったの?

 そんな…2か月近く、忙しくて会えなかったじゃん!」


「今までと違った、特殊な連休なんだ。学校の偉いやつらを説得させるのも

 そりゃ長い期間も苦労するに決まってるだろ。」


「テニスで、忙しかったわけじゃないの…?」


「いや、引き継ぎとかもあったしな。同時作業だったから、相当忙しかったぜ。」


「なんで、え、その連休が…私の誕生日プレゼント、とか?」


「喜べ。その連休の5日間ずーっと、俺様とオランダの別荘で過ごさせてやるよ。」





彼が、ふんぞり返りながら、にや、と笑った。

これは、冗談じゃないぞ、本気だ。むしろ、決定事項だ。


でも、どうしてオランダ…?景吾、オランダ好きだったっけ?と、聞いたら





、前にオランダ写真集を見ていただろ。…で、オランダが好きと、言った。

 …いやチゲーな。オランダも俺様もS・K・Y、って言っていただろ?」


「!き、気づいちゃった?」


「俺様に分からねぇことなんて、ねーんだよ、バーカ。…ま、気づいたのは最近になってだけどな。

 ずいぶんと前から遠回しに、想いを俺様に伝えてたじゃねーの、アーン?」





にやにや、と笑いながら。彼は、言う。


最初っから遠回しにしなけりゃ、もっと早く長く一緒だったのに、素直じゃねーな。

仕方ないよ、これは。だって告白怖かったもん、でもまぁ確かにちょっと卑怯だよね。





声に発せられる今、あれからもう何度目の

「S・K・Y」



たった3秒だけで、あなたに、伝えている言葉。

たった3文字だけで、あなたを、手に入れる言葉。




ねぇ。好きよ、景吾。

あぁ、俺もだ、





たった3秒だけで、あなたに、あなたに、伝えていた言葉。

たった3文字だけで、あなたを、あなたを、手に入れた言葉。







「 好きよ。」









キリバンを踏んでいただいた、美和さまへ。
リクエストありがとうございました!
跡部のらぶらぶ・・・になりきれた、でしょうか?

いやぁ跡部はむずかしいですねぇ。

全体的なイメージとして某笑笑動画でおなじみの
ライブP/S・K・Yを使わせていただきました。
良い曲ですので、ぜひ聞いてみてください。