「ねぇ、ほんとうに行っちゃうの。リーマス。」 「うん。」 「だめだよ。きっと、また、ひとりになっちゃうよ。」 「うん。そうかもしれない。だけどね、」 それでも僕は行きたい。 リーマスははっきりと、そう言った。 遠くで、誰かがワルツをピアノで弾いている。 さっきから躓いてばかりの、ワルツ。 練習中というのは、私にもわかった。 明日、勝手な大人がリーマスの門出を祝うからだわ。 リーマスが、ココから居なくなるのを祝うためだわ。 明日、祝うための舞踏会があるからだわ。 ココと、リーマスが、分かりあえてるかなんての答えは、どこにも無いんだ。 けど、私は、リーマスを分かっているつもりだったの。 11歳のちんけな私だから、どう止めていいのかわからなくて。 ただただ、あなたを抱きしめたの。 「リーマスは優しすぎるんだよ。だから、そのダンブルドアって先生を信じちゃうんだ。」 「そんなことないよ。僕は優しくない。ダンブルドア先生や、こそが優しいよ。」 「うそ、うそだよ。」 「・・・泣いてる?」 「・・・うん。リーマスが優しすぎるから。」 ねえ、リーマス。優しい人は、とても哀れだよ。 私みたいな独占欲の塊みたいなものに、すがられちゃうんだもん。 それなのに、リーマスはひとりなの。 自分が凶器のようなものだと思っているんだわ。 そんなことないよ、ひとりにならないで。 どうか、ひとりにはならないで。 「いつ、行くの。」 「4月になったら。」 「そっか・・・。冬が終わったら、雪と一緒にリーマスは居なくなっちゃうんだね。」 「うん。」 「リーマスは、どこまで行くの。どこの世界まで行くの。」 「・・・僕が、居ていい場所なんてあるのかな。」 「え・・・?」 「僕は、きっとどこの世界でも許されない。だから、世界の果てへでも行ってみるよ。」 リーマス。リーマス。 どうか、そんな悲しい顔で笑わないで。 ねえ、いつから? いつから、リーマスはそういう風に笑うようになったの? 「世界の果てへでも、行く、か。」 「うん。」 「きっと、ここより、暖かいだろうね。ここは、春でも寒いから。」 「暖かい、かぁ。きっと、僕には関係ないよ。」 「っ!関係なくないわ!こんな寒いところの温度だけを知ってちゃダメだよ!」 『うわぁ!狼人間だ!!』 『やめて!ちがうよ!リーマスは、いい子だよ!』 『くわれちゃうー!』 『キャハハハ!ガオー!食べられるぞー!』 『やめて!やめてやめて!』 あんなに仲の良かった友達をも失って。 リーマスはいっぱい、いっぱい傷ついたんだよ。 神様なんて、いないんでしょう。 いたなら、リーマスを幸せにして。 私の幸せを取って良いから、だから、だから。 「私、祈るよ。リーマスが色んな世界を体験して、暖かい場所を見つけられないはずがないんだよ。」 「ありがとう。」 「その場所をも失うと思ってるでしょう?でも、それでも行くんでしょう。」 「ああ。僕は、行きたい。たとえ、これが、寂しい期待だとしても。」 「寂しくなんかないよ。私が祈ってるよ。だから、きっとあるよ。」 「・・・は優しいね。」 「リーマスのほうが、何百倍も優しいよ・・・。ひとりにならないでね。」 「うん。でも、僕が行ったら、がいなくて、ひとりかもしれないね。」 「私も、リーマスがいなくて、ひとりだよ。」 あ、まただ。また、悲しく笑った。 うそつき うそつき。 ひとりかもしれないね、じゃないでしょう。 自分から一人になるのでしょう。 「リーマスは凶器じゃないよ。」 「・・・僕は、凶器だ。」 「ちがうよ。現に、私が今抱きしめても、私は傷ついてない。」 「それは・・・」 「泣いていいんだよ。苦しんで。いっぱいいっぱいになったら、私を呼んで。 1度だっていいよ。それが、最後でもいいから。 そしたら、私、絶対、返事するよ。」 「・・・」 「あなたは凶器じゃない。ひとりで踊らないで。」 私は、一歩はなれて、リーマスに手を差し伸べた。 リーマスの門出を祝うためのワルツ? 冗談じゃないわ。 リーマスをここから追い出すためのワルツ? くそくらえ! 「リーマス、踊ろう。私と、ワルツを。」 あなたは優しすぎるの。あなたは凶器じゃないわ。 だって、ほら。 ちゃんと、私たち、ワルツを踊れているでしょう? ![]() そして彼女は、リーマスが旅立った数ヵ月後、 リーマスから送られてきた楽しそうな写真の中の人と、 楽しそうなリーマスに、ひとり、涙するのです。 |