、すまないが、その羽ペンを取ってくれないか。」


「はい、セブルス。」








ホグワーツの図書室は広い。

広いぶん、いろんな寮のやつらが来る。

もちろん、グリフィンドールもだ。


だが、談話室の狭い机で課題をすますより、こちらの大きい机ですました方が良い。


入学当初は、1人で来るほうが多かったのに、今ではが隣にいる。


そう、いつのまにか、だ。










04. いつのまにか










「うーん。やっぱり、セブルスと一緒のほうが課題、はかどるね。」


「それはそうだろう。アークスと一緒だと、まともに勉強なんか出来るわけがない。」


「クリードは、ジっと座ってるのが苦手なんだ。」


「・・・いつも思うが、アークスはの付き人なのだろう。常に一緒ではないのか。」


「いつも一緒だよ。だけど、セブルスと一緒に居るなら、ってクリードは自室で寝ているよ。

 クリードだって、個人の時間は必要なんだからね。」


「・・・さしずめ、僕がアークスの代わりか。」


「そ、それは違うよ!セブルス!クリードが、セブルスを信用したんだよ。」


「っふ。どうだかな。」


「セブルスって、本当意地悪だね・・・。」








口では、呆れたように言っているが、そう言っている表情こそは穏やかだった。


ここは、図書室の中でも、かなり奥。

少し大きな声をが出しても、管理人は気づかないだろう。

それに、このぐらい奥であれば、人は通りさえしない。


僕の隣に居て良いのは、だけだ。

この空間に他の奴が入ってくることが、一番僕は嫌だ。


低級で低俗で、少し前なら下らないとさえも思った、この感情。この気持ち。

いつのまに出来たのだろうか。


感情の持ち主である、僕でさえ分からない。








「そういえば、さ。セブルス。最近やっと、私を名前で呼んでくれたね?」


「・・・いやか?」


「嫌じゃないよ。だって、私が呼んでって頼んだようなものだしね。

 嬉しいよ。セブルス、最初私のことをフルネームで呼んでいたでしょ?」


「ああ。そういえば、そうだったな。」



「つい最近まで、話しかけただけで噛みつかれそうなオーラだったのに。

 やっと私もセブルスに認められたってことだね。」


「それはどうだかな。」


「ほんと、意地悪だなぁ、もう。」








羽ペンを指先で振りながら、が笑う。

そんなに振ると、インクが飛ぶぞ。・・・ほらな、言わんこっちゃない。




僕が、インクが飛び散った羊皮紙を、元の状態に戻すと、は笑って


ありがとう


と、言った。


いつのまに、僕は、他人のために魔法を使うなんていう動作が躊躇いもなく出来たのだろう。

いつのまに、僕は、自分以外のすべてを見ようともしない世界から、外に出ていたのだろう。








いつから僕は、
人に笑えるようになったのだろうか。








まだぎこちないかもしれないが、お前のようには笑えていないだろうが。

笑うという動作、笑うという感情。


いつから、消えてしまったのかも分からないけど。

いつのまに、簡単に笑えるようになったのだろう。