たったその一言だけで、私は素直に笑えなくなってしまったのだ。 まったく、人の言葉は怖い。本当に言霊ってあると思う。人一人、かえてしまうのだから。
悲しくはない、嬉しかった。私はもう、あの人が怖くなってしまったのだから。
私は全く関わることのなかった人種と隣になってしまった。
クールな人かと思っていたけど、ね。
彼は、私を聞き上手と判断したのだろうか。ずっと、話しかけていた。
口をあけて笑わんとわからんって、 何を言ってるの、笑ってるよ、と私は今日も嘘をつく。 ある日、私の机がひどい有様になっていた。忍足くんはビックリしてスマンと言った。
「俺やあらへんよ、やってへん。」 「じゃあ、貴方が謝ることじゃないよ。」 「…かっこええな、俺、惚れそうや。」 「ありがとう。」
その会話から、彼はいつものように話しかけてくれなくなった。 いや、考え事をしているのかもしれない。
あぁ、せやな、うん、考え事や、彼が言う。
それが、その日見た忍足くんの最後の姿。
女子4名も、雑談の多い元気すぎる子たちばかりなので、 サボリだろうと、誰も言わなかったけど、そういうことになっていた。
驚いて、おはよう、私が言う。 おはようさん、彼も言う。
「じゃあ、不特定多数の彼女との密会、かな?」 「勘がええな、ある意味、正解や。」 「不潔ね、正常な証拠だけど。」 「ちゃうちゃうって、そんなんやないよ。」 「じゃあ、なにをしていたと言うの?」
どうしてかはわからないけど。
あっ、自分、今、笑ったやん、わー宝くじ当たった気分や、と彼が言う。
一年前に好きだった人の何気ない言葉の呪縛が、解かれた気がした。
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