残酷な、定位置

 

僕の家には、しもべ妖精を統括している魔女が居る。

それは、僕の歳に近い娘で、幼少のころに父上が買ってきた"モノ"だ。

父上は、僕の遊び相手…いや、玩具のつもりで買ってきたのだろうけど、

この家で誰よりも僕に優しくしてくれて、誰よりも僕の命令と考えに忠実で

父上よりも母よりも、僕のことを考えてくれた彼女を、"玩具"と思ったことは一度たりともなかった。






「ドラコ、素敵よ。とっても似合っているわ。」

「はい、ありがとうございます。」

「あとは、そうね、あと何か、何か足りない気がするのだけれど…あなた、どう思う?」






僕の誕生日パーティーの服を見て、母が彼女に尋ねる。

すると、彼女は、恐れながら失礼いたします、と頭を下げて、杖を一振り。


いつもこうだ。母が用意した服に、最後の飾り付けをするのはいつも、彼女で。

彼女の柔らかい頬笑みが、よくお似合いですよ、ドラコ様、と僕の脳内に焼きついていた。


仮面だらけのパーティーも終わり、僕はすぐにネクタイを緩めようとした。





「ドラコ様、旦那様がお呼びです。まだ、ネクタイは緩まない方が良いかと。」

「・・・・そうか、わかった。父上はどこに居る。」

「旦那様の自室です。私もご一緒いたします。」

「父上がお前も呼んでいるとは、珍しいな。普段は、屋敷しもべ妖精しか呼ばないのに。」






この時、すでに彼女は気づいていたんだろう。今思えば、わかる。

僕の疑問に彼女は、きっと他の召使では出来ないのでしょう。と、強い目線で遠くを見ていたから。






「ドラコ、お前もそろそろ、女を知って良い年だろう。」






そして、今、目の前の父上の言っていることに、考えが追いつかない僕は

ただ、父上を見ることしかできない。返事が出ない。うごけない。

父上は反応のない僕の隣にいる、彼女を手招きした。彼女が父上の元へ歩く。






「私は、このモノを買った時、ああドラコが女を知るのに丁度良いと思っていたんだよ。」

「ありがとうございます。」

「お前も床の扱い方はもう覚えただろう、私の可愛いドラコを喜ばせてやりなさい。」

「はい。それが命令であれば。」

「ドラコ、私からの誕生日プレゼントだよ。」





考えが追いついた。ああ、そうか。

どんなに僕と彼女の仲が良かろうが、どんなに僕が彼女に好意を抱こうが

僕と彼女の関係は変わらないんだ。僕は「主人」で、彼女は「召使」で。


そして今、彼女は僕の部屋に居る。

僕はベッドに座り、彼女はドアの前で未だに立っている。





「ドラコ様、申し訳ありません。私のような醜い老女がお相手で。」

「…僕とそんなに歳が変わらないだろう、それに君は綺麗だ。」

「ドラコ様…。そのような顔をしないでくださいませ、ドラコ様はいつも堂々としていらっしゃいます。」





こんな状況なのに、彼女は笑う。綺麗な顔で、笑う。





「好きだ、と言ったら…お前はどうするんだ?」





こんな状況で、言うつもりはなかったのに。彼女が苦しむことには、変わりないのに。

お前を組み敷いて、僕は何を言っているのだろうな。それでもお前は、笑うのか。




「ありがとうございます、ドラコ様。でも、それは言ってはいけません。」




僕と彼女の残酷な、定位置。







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